あの日あの時...あの場所で



「今のお前は、誰のものでもねぇ。だから、何一つ気にする事はない。だから、黙って守られてくれ」
「分かった」
今の私は、柊の言葉に頷く事しか出来なかった。

豪に、無理させてた私が、彼の側にいられるはずも無い。
学校でも距離を取らなきゃいけないよね。
佐奈さんに、嫌な思いをさせちゃうもんね。

だって、私は豪の彼女でも無いもん。
告白されて、ズルズルと返事を引き伸ばして、彼を縛り付けてただけだ。
佐奈さんに言われて、改めてそれに気付くなんて···ね。

「じゃあ、着替えたら飯食って学校行こう。今日からは俺が送り迎えするからな。一人で出歩くなよ」
ポンポンと頭を撫でられ、素直に頷いた。
柊の優しさに助けられてるね。
でも、こんなのも佐奈さんから見たら、ズルいだけなのかもね。

私、本当にどうしたらいいんだろう。
頭の中がぐちゃぐちゃすぎて、本当に分かんないよ。
溢れそうになる涙を止めて、舌唇を噛みしめる。

「傷付くだろ。噛むんじゃねぇ」
「柊···」
「早くしねぇと遅刻するぞ」
「それは嫌だよ」
「なら、着替えろ。先にリビングに行ってるからな」
柊はもう一度私の頭を撫でると部屋から出て行った。
ウジウジしてても、始まらないね。
しっかりしなきゃ。
梅達も待っててくれるから、学校に行こう。

豪達の姿を見るのはまだ辛いかも知れないけど、今の私は一人じゃないもんね。
パンっと両手で顔を叩いて立ち上がる。

こんなの私らしくない。
柊と話し合って、前に進むって決めたじゃない。
豪との時間が無くなるのだとしても、それはきっと仕方がない事だよね。
お互いに時間は進むんだもん。
立ち止まるのなんて、勿体無いって嫌ってほど知ってるから。
私を支えて守ってくれた豪の幸せを願えるぐらい強くなりたい。
今までの私は、彼に貰ってばっかりだったんだもん。

「うん、そうだよね」
豪の為に出来ることがあるのなら、私、頑張りたい。
佐奈さんは、苦手だけど。
出会ったばっかりの人をそんな風に思っちゃいけないよね。
そんなの、私らしくない。
転校してきたばっかりで、佐奈さんだって心細いんだよ。
自分が転校してきた時の事を思いだす。
私は咲瑠が段取りしてくれてたから、一人ぼっちにはならなかったけど。
やっぱり心細かったもん。


気持ちを新たにした私は、まだ知らない。
佐奈さんが、仕掛けた罠が発動しようとしている事を。