「じゃ、出発」
ちぃ君は私を膝の上に乗せたままそう言った。
車がゆっくりと動き出すと、周囲を囲ってた生徒達はちりじりに去っていく。
いやいや...さすがにもう下ろしてくださいよ。
「ちぃ君、降りる」
と言ったのに、
「体調の悪いお姫様は手放せません」
だなんて言われる。
お姫様では...ないね?明らかに。
「千景いい加減、瑠樹を離せよ。ベタベタすんな」
助手席から体ごと振り返った咲留は物凄い顔でちぃ君を睨み付ける。
「嫌だね。可愛い瑠樹は俺のもの」
そう言うと咲留に見せつける様に私の頭に頬を擦り寄せてくる。
「...チッ...なんしてんだよ、千景」
と憤慨する咲留。
「ちぃ君、くすぐったいよ」
うちにはやっぱりシスコンのお兄ちゃんが二人居る。
「千景、瑠樹は俺のだ」
「いんや、俺の」
言い合う二人を見つめながら、どちらのものでもないと思った。
二人がくだらない事を楽しそうに言い合ってくれたお陰で、胸の奥で燻ってた黒い何かは静まっていく。
今は豪の事を考えないで良いならその方が良い。
もうあんな苦しいのは嫌だもん。
ちぃ君と咲留の言い合う声を聞きながら、窓から流れる景色をぼんやりと眺めていた。



