「あ、おう、だよな。帰るか」
梅に頷いてちぃ君を見た咲留。
「ああ。帰ろうぜ」
ちぃ君は頷きながら遠くを睨み付ける。
その先には富田さんを腕にしがみつかせたままの豪の姿。
咲留もちぃ君の視線を辿ってそこへと辿り着く。
そして険しい表情になる。
ピリピリとしたなにかが流れる。
「豪、お前、もう良いわ。今のてめぇには瑠樹は預けらんねぇから」
ちぃ君の低い声は、周囲を震撼させた。
「はっ?な、なに言ってんだ、千景」
言い返す豪の声も低い。
「うるせぇ。てめぇの身辺が綺麗なるまで学校でも瑠樹に近付くな。お前以外に任せる」
ちぃ君はそう言うと私を抱き上げたまま背を向ける。
「あっ...ま、待てよ、千景」
追い掛けようとした豪は、
「良いじゃん、あんな子。イケメン二人に任せとけば」
と腕に両手でしがみついた富田さんに引き留められた。
悔しいけど、ちぃ君の背中越しに見えた二人はとてもお似合いに見えた。
私には何も言う権利も、豪の行動を制限する権利もないと言うのに、どうしてこんなにも苦しいんだろうか。
もう見てられない...とちぃ君の肩に埋めた顔。
だから、そんな私を豪が苦しそうに見つめてたなんて知らない。
「梅ちゃんも、桃ちゃんも、楓ちゃんもありがとうな?助かった」
校門前に停めた車の前で咲留が三人にお礼を言う。
「いいえ、私たちは何も」
桃が照れ臭そうに笑う。
「瑠樹ちゃんの事お願いします」
と楓が言うと、
「もちろん、任せて」
とちぃ君がウインクする。
「あ、てめぇ...だから、瑠樹は俺の妹なんだって」
と咲留がちぃ君に食って掛かる。
「知らねぇし。ほら、瑠樹、皆にバイバイしな」
咲留をいなして、私を見たちぃ君は本当のお兄ちゃんみたいだ。
「ん、ちぃ君。皆、色々ありがとう」
頷いてから三人を見つめる。
「良いのよ。ほら、早く帰りなさいよ」
梅が急かすように後部座席のドアを開けてくれる。
「ありがとうね、梅ちゃん」
ちぃ君は梅に微笑むと私を抱いたまま体を屈めて車に乗り込んだ。
梅の手によってパタンとしまるドア。
「あ、待て待て、俺も乗る」
大急ぎで助手席に乗ってきた咲留。



