運転手と差し障りのない会話をしているうちに、タクシーは目的地へと到着した。
「本当に、ここでいいのかな?」
運転手の顔は疑心暗鬼に苛まれていて。
ま、その反応で仕方ないな。
だってここは港の倉庫街だから。
普通の人は旅行用のキャリーバッグなんて持って訪れたりしないよね。
うん、おじさんの言いたいこと凄く分かります。
「はい、ここに兄が居るんです。なので大丈夫ですよ」
ニコッと笑って頷いた。
「そうですか?ならばいいんですが。この辺は少し治安が悪いので気をつけてね」
運転手はそう言いながら、ボタンを押して後部座席のドアを開けてくれた。
「はい、ありがとうございます」
お金を払った後、お礼を言って降りた。
運転席から降りた運転手はトランクからキャリーバッグを下ろしてくれる。
「里帰り楽しんでね」
と言われ、
「はい」
とキャリーバッグを受け取った。
運転手さんに手を振って歩き出す。
コロコロとキャリーバッグの鳴る音が静かな倉庫街に響く。
さ、お兄ちゃんはどんな顔して驚いてくれるのかな?
彼の驚く顔を思い浮かべて、ニシシと笑う。
連絡も無しに来たから、居るかどうかも怪しいんだけどね?
ま、なんとかなるっしょ!
こんな時に、私の楽天的な性格が発揮されるのだ。



