あの日あの時...あの場所で







音のないVIPルーム。

カランと柊の持つグラスの中の氷が音を立てる。


あの頃、私が引っ越さなくて。

あの頃、柊に何かが起こらなかったら。


私達は今も一緒だったのかも知れない。

そんな事を思いながら、正面の壁に掛けられた絵画をぼんやりと見つめていた。






「ずっと、一緒だと思ってたよな」

柊の口から吐き出された切ない声。


「...ん」

同じこと思ってたんだね。


「...ごめん..な?お前を傷付けて悪かったと思ってる」

コトッと小さな音のたててグラスをテーブルに置いた柊は、私を切なそうに見た。


「...ううん。何か事情があったんだよね?」

圭吾の物言いからそれを感じ取ってたの。


私を引き離さないといけない事情が出来てしまったんだと。

柊の事だから、きっと私を思って離れたんじゃないかと思えるんだ。


今の私だから、そんな別の角度で物事を考えられる様になったのかも知れないけど。



「...チッ..圭吾か?」

バツが悪そうに目を伏せると、苦々しげに圭吾の名を呼んだ柊。


「...あ、ま..色々と総合してね?」

苦笑いで話を濁しておこう。


色々と手間をかけてまで、ここに連れてきてくれた圭吾が後で柊に怒られるのは可哀想だもん。




「...ま、今さら誰が何を言っても遅せのは変わらねぇな」

柊は寂しそうに顔を歪ませて天井を仰ぎ見た。


貴方は一人でなにを抱えてきたの?


そして、それを私は聞く資格を持つのだろうか?



胸元へと手を当てる。


ゆっくりと数回深呼吸を繰返し、気合いを入れる。


資格が無くとも私はそれを聞かなきゃいけない。

ここへ繰るまでに沢山悩んで来た。


何も知らずに、何も聞かずに、帰るなんて選択肢はないんだよね。


柊に告げられる言葉がどんなにも、残酷な物だとしても。


前に進むために全てを知りたいんだ。