あの日あの時...あの場所で









ゴチンと大きな音と同時に、


「いてぇ」

と陽史の声がした。


慌てて顔を上げると、頭部を押さえてその場に踞った陽史がそこにいて。


ん?どうしたんだろ?


「てめぇはくだらねぇこと言ってねぇで、見回り行ってこい」

礼二が握り拳を作ったまま冷たい表情で陽史を見下ろす。


「...きゅ、急にどうしたんですか?礼二さんの拳骨いてぇ」

涙目で礼二を見上げて理不尽だと訴えるような視線を送る陽史に、


「礼二の言うように今すぐ行け」

無表情で入り口のドアを指差して低い声で陽史を威圧した圭吾。

その姿に陽史は顔を青ざめさせて慌てて立ち上がると、

「分かりました。行ってきます」

ペコッと頭を下げて入り口に駆け出した。


礼二と圭吾はその後ろ姿に大きな溜め息をつく。


「悪い奴じゃないんだけど、空気読めないんだよね。ごめんね?瑠樹ちゃん」

申し訳なさそうに圭吾は私を見た。


「ううん、大丈夫。何ともないよ」

私は笑って見せる。


「あいつはああ言ってたけど、最近のキングは女遊びしてねぇぞ」

礼二も私を心配そうに見下ろした。


「うん、ほんと、大丈夫」

二人とも心配してくれてるのが痛いほどに分かる。


私はキングの何でもないのに、こんな風に心配してくれなくても大丈夫。


本当に...大丈夫...なはずだよ。


少しだけ息苦しいだけなんだ。




「彼、大丈夫かな?」

「ああ、それは問題ないから。さ、行こうか。キングが待ってる」

圭吾はそう言うと私の肩を優しく押して促すと歩き出した。


「あ...うん」

再び緊張が蘇ってくる。

圭吾の向こうに見えるVIPルームのドア。


あの奥に柊が居る。


柊が待ってるのは私じゃなくて、圭吾だろうけど。


突然現れた私を見て柊は何て思うかな?



ここまできたら行くしかない。


私は重い足を動かし始めた。



「瑠樹ちゃん、またね?」

と手を振ってくれた礼二に、

「あ、うん、また」

と手を振り返した。


上手く笑えていたかどうかは、分からない。