あの日あの時...あの場所で









「豪...どうかした?」

何も言わずにいた俺を瑠樹が不思議そうに見上げる。


愛らしくて愛しい女。

ダメだ...感情が溢れてくる。


瑠樹に触れてぇ、瑠樹を抱き締めてぇ。

そして、瑠樹の頭ん中を俺だけで満たしてぇ。



頭の奥で何かがプツンと切れた音がした。





「...瑠樹」

俺は愛しい女の名前を呼んで伸ばした両手で目の前に瑠樹を自分の懐に抱き抱えていた。


「えっ?...あ、ご、豪?」

瑠樹の戸惑いの声。

だけど、一度溢れだした感情を俺は止める事が出来なかった。


俺よりも随分小さな瑠樹をすっぽりと抱き抱えて、壊れ物に触れるかのように片手を瑠樹の頬に伸ばした。


そんな俺を瑠樹は瞳を揺らしたまま困惑の表情で見上げてる。



丸くて大きな瞳も、蕾の様な小さな唇も、スッキリと通った鼻筋も、全部全部愛しくて仕方ねぇ。


泣き顔も笑顔も困った顔も怒った顔も、全てが俺のモノであって欲しい。


吹き出した欲望は押さえらんねぇ。





「瑠樹....お前が好きだ」

真っ直ぐに瑠樹の瞳を見つめてそう告げる。


「えっ?」

大きくて見開かれていく瑠樹の瞳は激しく揺れる。


「お前が好きだ。俺の女になってくれ。誰よりも大切にするから」

頼むから届いてくれ。

キングじゃなくて俺を選んでくれ。



「...っ...」


瑠樹の瞳がみるみるうちに涙を蓄えていく。


困ってるのが見てとれるから、俺の胸は締め付けられる。


瑠樹が俺を男として見てねぇことなんて、最初から分かってたはずなのに苦しくて仕方ねぇ。


だけど、もう後戻り出来ねぇ。

吐き出した言葉は無かった事には出来ねぇ。


だから、俺は無かった事になんてしてやんねぇぞ。



「瑠樹、直ぐに返事をくれだなんて思ってねぇ。だけど、俺を男として意識してくれ。そして出来るなら俺の思いを受け取って欲しい」

「...豪」

不安に揺れる瑠樹。


「こんな場所で長居は体に悪い。ほら、部屋に入れ。じゃあな」

俺は瑠樹をドアの奥へと押しやって頭をもう一度だけ撫でると背を向けた。


言い逃げなんて狡いけど、俺のキャパシティは既に越えてんだ。


背中に瑠樹の視線を感じながらも振り返る事が出来なかった。