あの日あの時...あの場所で








豪が教室から鞄を持ってきてくれて、マンションへと戻った。


もちろん、いつもの車に乗って。


一人で大丈夫だと言っても、豪は聞き入れてくれなくて。

結局の所、送り届けて貰った訳だけど。




「本当に大丈夫か?」

いつもならエントランスでバイバイするはずの豪が、今日は部屋までついて来てくれた。


抱っこして歩こうとしたから、さすがにそれは断ったけど。


今も玄関で心配そうに私を見てる豪に申し訳なくなる。

確かに体は重怠いんだけど、このまで心配してもらうほどでは無いのだ。



「うん、ありがとうね。本当に大丈夫だよ」

豪を見上げてニッコリと笑う。


「バカか。無理して笑うな」

ピンッと指でおでこを弾かれた。


作り笑いバレちゃったんだね。

でもね、今、本当に笑えないの。


胸が詰まりすぎで身動き取れないんだ。



「豪...」

「何かあんなら話して欲しい。こんなボロボロの瑠樹を見んのは辛れぇ」

豪にこんな切ない顔させたくないのに。

何も言ってないのに、豪は気付いてくれるんだね。


でも、話せる訳なんて無いじゃん。

柊の事なんて言えないよ。


「...ううん、何も無いの。熱があってしんどいだけだと思う」

今の私はそう言うしか出来ない。


「...そうか?なら良いけど。無理すんなよ?瑠樹が心配で仕方ねぇ」

ポンポンと頭を撫でてくれる豪の手は大きくて暖かい。


「いつも心配ばかりかけてごめんね?」

私は豪の優しさに何も返せないのに。


「謝んな。俺が好きでやってることだ」

「.....」

豪はいつも私を一番に考えてくれる。

そんな豪を...私は裏切ろうとしてる。


柊に会いに行くと言うことは、きっと豪を悲しませる。

だけど、私は会いに行かないと言う選択を選べない。


今も....今も苦しんでる柊を放っては置けないの。


あぁ、こんな所で気付くなんて。
 
私が今、一番したいことに......。


豪の優しさに触れて気づいてしまうなんて、私はなんて愚かしいんだろうか。



豪の顔を見てられなくなって俯いた。