互いに何も話さないまま到着したのは階段に近い空き教室。
「ここで少しお話ししない?」
と教室のドアに手をかけて開けた小西さん。
「...あ、はい」
と返事した私を一度だけ振り返って少し埃っぽい教室へと入って行った小西さんに続いて足を踏み入れた。
ざわめく廊下を遮断するように後ろ手にドアを閉めた。
教室の奥へと足を進めていた小西さんは窓際まで行くと窓枠に手を置いて振り返った。
私はゆっくりと教壇まで歩く。
彼女が敵でないことは分かってる。
だけど警戒は解けない。
私一人の行動で大勢の人間が動いてしまう事を知っているから、行動は慎重にするべきだと知っているから。
教室を懐かしそうに見渡した小西さんは、私へと焦点を合わせる。
「教室、凄く懐かしい。三月まではここに居たのにとても不思議な感じ。高校生に戻りたいなぁ」
フフフと綺麗に微笑んだ。
「.....」
初対面の私にそんな事を言われても...。
「あ...ごめんなさいね。急にこんな話されても困るよね」
「...いえ、別に」
少しだけ眉が下がった。
「急にこんな所に連れてきてごめんね」
と下げた目尻がやっぱり誰かに似てる気がした。
「いえ、私にご用があったんですよね?」
「うん。噂の狼姫と会ってお話ししたかったの」
半分は嘘だと感じた。
私に会いたいって事だけが、きっと目的じゃない。
「...あまり時間が無いので本来の目的に移って貰えますか?」
時間をかけると豪が来てしまう。
「あらら、バレちゃってるのね?」
フフフ、勘が良いのね、と彼女は笑い窓枠にもたれかけていた体を起こした。
勘が良いも何も、会った事もない元会長に連れ出されたら何かあると思うから、普通。
「小西さんとは面識がないですからね。何かあると思うのが普通ですよ」
そう言って前髪をかきあげた。
さっきから顔にかかって邪魔だったのよね。
「フフ、確かにそうよね。あ、話をする前に名前を聞きいても良い?」
私の名前も知らずにここに誘ったの?
ますます妙な話だ。
「あ、狼姫って事は有名だから知ってるんだけど、貴女の名前は漏れないようにセーブされてるのよね」
と付け足した小西さん。
私の名前を広げないようにしてるのは、咲留や豪達で間違いないと思う。



