あの日あの時...あの場所で






集団に近づくに連れて彼女達の声がはっきりと聞こえだす。


「会長、お久しぶりです」

「ほんと、久し振りね」

「今日はコスプレですか?」

「しっ、失礼ね。去年まではこの制服着てたし」

「いやぁ~なんだか、今の会長見てるとコスプレっぽいですよ」

やたらと楽しそうだ。


彼女達の中心に居る人物が、会長と呼ばれるコスプレーヤーだと言うのは分かった。





「去年卒業した会長が来てるみたいね」

ヒソヒソと私に聞いてくる楓。


「話の具合からするとそうみたいだね」

特に興味ないけど。


私と楓は彼女達に視線を時おり向けながらも足を止めずに歩く。


会長だろうがなんだろうが、私達にはまったく関係なし。




「会長は何しに来たんですかぁ」

キャピキャピしてる声。


「あ、うん、少し用事があったのよ。そのついでに貴女達の顔でも見ていこうと思ったのよ」

会長らしき人の声。


「お会いできて嬉しいですぅ」

「ええ、私もよ。それはそうと変わったことはない?」

「変わった事ですか?」

「あ、あります」

「うんうん、あったあった」

「狼姫が現れたんですよ」

誰かの声に、ギクッとなる。


えっ?ここで私?

そう思ったのは楓もだったらしく、思わず顔を見合わせた。

ここはさっさと通り過ぎよう。心の底から思った。


足早に彼女達の横をすり抜けるしかない。

二人で顔を俯かせて気付かれないように通り過ぎる。



いや、通り過ぎるたはずだったけど.....。


ザワザワし始めたと同時に人垣が割れた。


そして、沢山の目がこちらに向かった。

中央に居たらしい女性ももちろんこちらを見てる。


気付かない振りで通り過ぎる。

無理があったとしても知ったこっちゃない。


こちとら、コスプレーヤーの会長なんてのは知らないんだし。


口々に『狼姫』だとひそひそと女の子達。


関係ない男の子や女の子もこっちを見てて。


完璧に悪目立ちしてるじゃん。


良い迷惑だ。


こんな状態で声なんてかけてこないでよと思ってた私に聞こえてきたのは、近付いてくる足音。


「楓、急ごう」

楓の腕を掴んで歩き出した私の声に聞こえたのは、少しはスキーな色気のある声。


「貴女が狼姫ね?」

仕方なく声のする方に視線を向けると、とても綺麗な顔をした女の人がこちらを見てた。

ん?この人、誰かに似てる。

思い出せないけどそんな気がした。









絡まる視線。

女の私でもドキッとするような微笑みだ。


仕方なく立ち止まる。

さすがにここで無視とか無理だしね。



「...そんな風に呼ばれてるみたいですね」

と微笑み返す。


「あらぁ、本当に可愛らしい子なのね。あの女嫌いの狼王が溺愛するのも分かる気がする」

私の前までやって来た彼女は綺麗に微笑む。


敵では...ない?

目の前の彼女からは殺気や悪意はまったく感じられない。


対峙する私達にはオロオロする楓が目の端に写る。


「楓、トイレに行ってきて良いよ」

直ぐに終わりそうにないから。


「えっ?で、でも...」

私を残していく事に戸惑いを見せる楓に微笑む。

「大丈夫よ。こんなに人の多い場所では何もないから。ほら、トイレもすぐそこだし」

二人で目指していたトイレへと視線を向けた。


「...わ、分かった。すぐ戻るから、何かあったら声を上げてね」

「うん、監視の目も生きてるから大丈夫だよ」

さっきからこちらを警戒するように見てる男の子達が居るし。


彼らは豪が私の安全のために、私の周りを警戒するように頼んでるメンバーだ。



「うん。じゃすぐ戻るから」

頷いた楓はそう言うと足早にトイレにかけていった。


その背中を見ながら思う、よほどトイレに行きたかったんだね、と。



「呼び止めてごめんなさいね。噂のお姫様とどうしてもお話ししたかったの」

「あ、いえ」

ってか、貴女だ誰?