あの日あの時...あの場所で










「瑠樹ちゃ~ん、一緒におトイレ行こうよ」

と誘ってくるのは楓。


「えっ?一人で行ってよ」

もちろん私は怪訝そうに眉を寄せる。


小学生じゃあるまいし。


「だって、寂しい」

眉を下げて可愛い顔で見つめてもダメだし。


「面倒臭いからヤだ」

机に頬杖をついて気だるそうに楓を見上げる。


「お願~い。梅と桃子は先生に呼ばれて居ないんだよぉ」

ああ、そう言えば二人はチャイム終りに先生に呼ばれてたっけ。


「だったら一人で行けばよくない?」

「ヤダぁ」

だから、トイレぐらい一人で行きなさいってば。


ザワザワと騒がしい教室、漏れ出た溜め息は飲み込まれていく。


「ほら、漏れる前に行っといでよ」

「瑠樹ちゃん冷た~い...」

とキャンキャン言い始めた楓だったけど、隣の机に俯せて寝ていた豪がピクッと動いた事で言葉尻を下げる。



お、ね、が、い

口パクと両手を合わせるジェスチャーに変えた楓。


そうまでして一緒に行きたいのね?

女の子ってどうしてトイレに一緒に行きたがるのかねぇ。

一人で行った方が気楽だと思うけど。

女の子の集団心理は相変わらずよく分からない。


楓の視線が痛い。


「...はぁ...分かったよ」

無言で訴えてくるの止めてよね。

カタンと音を立てて椅子を引いて立ち上がる。


「いや~ん、瑠樹ちゃんありがとう」

満面の笑みで喜ぶ楓に苦笑いした。



「どこ行く?」

隣から聞こえたのは少し掠れた豪の声。

あらら寝てたんじゃないんだね。

授業中から机に伏せてたから寝てると思ってたのに。



急に聞こえた豪の低い声に驚いて固まってる楓を一瞥してから豪を見た。

こちらを見上げる豪と視線が交わる。


「トイレ。心配要らないよ」

「...分かった。何かあれば直ぐに連絡しろ」

そう言うと豪は再び机に俯せた。


豪は学校に寝に来てるみたいだね。




「行こう」

固まったままの楓に声をかけて歩き出す。

グズグズしてたらチャイム鳴っちゃうし。


「あ...ま、待って、瑠樹ちゃん」

我に返った楓は慌てて追いかけてくる。


そんな楓を伴って教室を後にした。