あの日あの時...あの場所で





「やって欲しいことは凄く簡単なんだよ。ある女の子にこの手紙を渡してくれるだけでいい」

俺はシャツの胸ポケットに二つ折りにして入れてあった手紙を取り出してテーブルに置いた。


「...久々に連絡した来たと思ったら...また面倒な事を...」

大袈裟に首を左右に振った晴海は俺を睨む。


「お願い...晴海にしか頼めないんだよ。どうしても彼女にこれを渡して欲しい。キングの人生を左右するんだ」

俺は両手を合わせて頭を下げて懇願する。


キングの為に出来ることを全力でやりたい。

俺のやってることが少しでもきっかけになって、止まったままの二人の時間を動かせたらと思うんだ。

余計なお節介だけどさ、動かずにはいられない。



「...キングの人生?そんな重要なのこの手紙」

テーブルに置いた手紙を手にとってマジマジと見る晴海に、

「手紙自体はそんなに重要じゃないよ。きっかけに過ぎない」

と伝える。


晴海はキングのファンだからきっと引き受けてくれるはず。

どうか良い返事を宜しく!

期待を込めた視線を晴海に向けた俺。


「...分かったわよ。面倒臭いけどやってあげる。で、誰に渡すのよ?」

晴海の言葉にホッとして俺はズボンのポケットからスマホを取り出して一枚の写真を表示した。


「ありがとう、晴海。この子なんだけど」

「うわぁ、なに?この可愛さ。レベル高いわね」

スマホを覗き込んだ晴海は感嘆の声を漏らす。


「でしょ?瑠樹ちゃんは極上だよ」

彼女を誉められると自分のことのように嬉しい。


「...キングの思い人?」

周りを気にしながら小さい声でそう聞いた晴海に、


「そう。昔からキングの心を捉えて離さない女の子」

と小声で返す。



「...そう...フッ、こんな子が心の中に居たら誰にも本気になんてならないわねぇ」

顎に手を当ててうんうんと納得する晴海の顔はどこか楽しげだ。

キングのファンであって、キングの幸せをこよなく願う晴海だから、他の女の子達みたいに醜い嫉妬なんかしない。

前に一度聞いたら、晴海にとってキングはテレビに映るアイドルと同じ立ち位置らしい。


「晴海にしか頼めなくて」

これは間違いない。

晴海以外に今回のミッションを成功させられる人物は居ないだろう。