あの日あの時...あの場所で





ガシャンと錆び付いた音を鳴かしながらドアを押し開けてベランダに出た咲留さんに続く。


むわっと蒸せ返るような暑さに思わず顔をしかめた。

夜だと言っても、七月の夜は温度が高い。

吹いてくる風も生温くて、居心地が悪かった。


バタンと背後で音を立てて閉まるドア。

二畳ほどの空間に咲留さんと二人きりになる。


さっき瑠樹と二人きりになった時とは違う緊張が俺を支配する。


咲留さんはベランダの柵に両手で掴まると、闇の沈む海面へと視線を向けた。


昼間なら、このベランダからは港の景色が一望できる。

だけど、ここは倉庫街で夜になると明かりがほとんど無くなるので、倉庫の周囲は闇に包まれてる。

もちろん、海だって例外じゃなく黒に支配されてる。



「闇に覆われた海はいつ見ても気味悪りぃな」

ポツッと漏らした咲留さん。


「確かにそうですね」

俺は隣に並んで同じ様に柵に手をかけると海を眺めた。


今にも得体の知れない何かが、水面から顔を出しそうなそんな気味悪い雰囲気を醸し出してる。


倉庫街じゃなく、船舶の行き交う明るい港ならばデートスポットにでもなるんだろうけどな。


あいにくここはそんな洒落てねぇ。




「豪、お前は瑠樹が好きか?」

視線を動かさずに聞いてきた。


「...はい、好きです」

こんな言葉を俺が吐くようになるなんてな。



「...そうか。だったら、あいつ頼むな?」

切なげに顔を歪めて俺を見た咲留さんは何を思っているんだろうか。


「...どうかしたんですか?」

明らかに様子が可笑しい。


「柊が瑠樹に接触した」

「...柊...西のキングですか?」

キシッと心臓が嫌な音をたてた。

咲留さんの様子から、前に接触した時とは明らかに違うと感じた。


「あいつ、俺に宣戦布告しやがった。柊は瑠樹を奪いに来るぞ」

咲留さんの瞳は酷く苛立ってた。


「...チッ..」

不機嫌な舌打ちをした俺に咲留さんは、

「瑠樹を前みたいに悲しませたくねぇ。だから柊には近寄って欲しくねぇ。あいつは一度瑠樹を捨ててる。そんな奴が今さら瑠樹に関わるのは許せねぇ」

と本心を漏らした。


咲留さんの言うように、自分から手放した癖に今さらだろ?

西のキングは何を考えてやがる。

ギリリと柵をキツく握り締めた。