あの日あの時...あの場所で






仮眠室の大きなベッドの上に瑠樹をゆっくりと横たえる。

黒いシーツに放射線状に広がる瑠樹の傷みの少ない金色の長い髪。


スヤスヤと寝入る瑠樹はとても無防備で、俺の欲が煽られる。


俺だって男だからな?

好きな女を前にしたらそりゃ欲情もする。

染み一つない綺麗な白い肌に手を伸ばしたいと思うのも無理ねぇだろ?


もちろん、寝込みを襲うとか鬼畜じゃねぇからしねぇけど。

瑠樹を自分だけが独占出来たらと思わずにはいられない。


こいつが俺を男として見てぇのは百も承知だ。

だから、気持ちを伝えるつもりはまだねぇ。


いや...伝えるつもりがねぇんじゃなくて伝えられねぇだけか。

変に意識させて、離れられんのが怖いんだ。


今のポジションを易々と手放したくねぇんだよ。

咲留さん以外で、瑠樹に一番近い男は俺だ。

もし、気持ちを伝えてそれが無くなるのが惜しい。


瑠樹の側に居てぇ。



「フッ...女々しいな」

自嘲的な笑みを口元に称える。


そっと伸ばした手で瑠樹の髪を一束掴む。

そこにキスを落として、屈めていた体を起こした。


「ゆっくり眠れよ」

瑠樹の頬を一撫でして背を向けた。


これ以上同じ部屋に二人で居るのは危険だ。

瑠樹の全てを欲してしまう。


俺もただの男だったんだと改めて分かった。


部屋の電気を青い豆電球に変えると、静かにドアを開けて部屋を出た。


後ろ手に閉めたドア、すぐ側に人の気配を感じた。



部屋の側の壁に腕組みしてもたれ掛かるその人に、少しだけ驚いた。

さっきまで下で飲んでただろう?

わざわざここで待ってたって事は、俺に話が有るって事か。

妙な胸騒ぎがした。


俺を真っ直ぐに見据える咲留さんの瞳が陰りを見せていたから。



「瑠樹、眠ったんだな」

部屋へと優しい視線を向ける咲留さん。


「はい。もう12時回ってますからね」

俺も咲留さんと同じ方向に視線を向ける。


「少し良いか?」

「はい」

「じゃ、向こうのベランダにでも出ようぜ?」

咲留さんが親指を向けた通路の突き当たりのドアの向こうはベランダに繋がってる。


首だけで頷くと、咲留さんは壁にもたれかけていた体を、起こして歩き始めた。

俺は一拍遅れてその後ろを歩き出す。


あんまり良い話じゃねぇな?

咲留さんの寂しそうな背中を見ながらそう思った。