あの日あの時...あの場所で





思わず抱き締め返してしまいそうになる。


でも、そんなことをしたら気持ちが溢れ返ってしまう。


私は南の人間。

柊は西のキング。

互いに交わることのない存在。


大切にしてくれる豪達を私は裏切ったり出来ない。

昔、柊を裏切ってこの地を離れてしまった事を後悔しているから、私は二度と過ちを犯したくないの。


「...離して」

馬鹿の一つ覚えみたいに同じ言葉を口にする。


こんな状況から逃れる術を知らない私は非力だ。



「瑠樹は狼王が好きなのか?」

嫉妬を孕んだ柊の声に目を見開く。


「...へっ?」

いや、まぁ、豪は好きだけど。

第二のお兄ちゃんだと言っても過言じゃない。

まぁ、同じ年なんだけどね。


っうか、このシリアスな状況で今聞くことかな?


ちょっと肩透かしなんですけど。



「...どうなんだよ?」

そ、そんな威嚇されても困るし。



「...豪は好きだけど..」

「けど?」

そんなに眉間にシワを寄せないで欲しい。


イケメンの凄んだ顔は怖いんだよ。



「...っ..」

どうしたものかと考えあぐねる。


見下ろすの止めて。


ただでさえ身長差があるんだから、圧迫感半端ないし。



「瑠樹、答えろ」

柊の顔がグイッと迫った時、柊の背後が騒がしくなった。



「離せ!てめぇ」

咲留の怒鳴り声。


「あ...に、二階堂さん、少し落ち着きましょうよ」

焦る圭吾の声。


「...チッ」

不機嫌な舌打ちをした柊は溜め息を一度ついて私をその腕から解放した。


途端に無くなる温もりに少しだけ寂しさを感じた事は秘密だ。




「瑠樹!」

「あっ、待って二階堂さん!」


咲留と圭吾の声、駆け寄ってくる二つの足音。



柊は覚悟を決めたような顔をして後方へと体の向きを変える。


解放された事で自由になった体で声のする方へと顔を覗かせた。


見えたのは般若の様な顔をして怒り狂ってる咲留と、その咲留を止めようと咲留の腕にしがみつく圭吾の姿。


体格差で、圧倒される圭吾はもちろん引きずられてるけど。


「柊、てめぇ!今更どの面下げて瑠樹の前に現れた」

咲留の怒鳴り声。

腕にすがり付く圭吾を振り払って勢いよくこちらへと駆けてきた。