あの日あの時...あの場所で







「瑠樹...」

もう一度名前を呼ばれて抱き締められた。


ドキッと高鳴る胸。


ズキズキと痛む頭は、さっきから警鐘を鳴らしているのに。


私はこの状況から逃げ出すことも出来ないでいる。



「...はっ..離して..」

届くかどうかも分からないぐらいの声。


だけど、柊には伝わったみたいで私を抱き締める柊の肩がピクリと跳ねた。



「...瑠樹が俺を憎んでるのは分かってる...お前が俺を抱き締め返してくれねぇことも..」

柊に抱きすくめられたままの私は、柊の背中を抱き締め返す事もなく、ただだらりと腕を体の横へと腕を垂らしたままで、彼の言葉を聞いていた。


「.....」

憎んでないなんて綺麗事は言わない。

連絡の取れなくなった柊に少なかれ恨み言を抱いたのは間違いない。

だけど、その気持ち以上に彼を好きな気持ちが勝っていたと思う。



「...今更勝手だってのも分かってる..だけど..」

柊は何が言いたいの?


特別な人が出来たはずなのに、どうして私をこんな風に優しく抱き締めるんだろうか?


まるで、私が好きだと言ってるみたいに...。


本命の彼女が居るなら、こんな勘違いするような事をしないで欲しい。



「...お願い、何も言わないで..」

柊の腕の中で激しく首を左右に振った。


聞きたくない。


何も...聞きたくない。


聞いてしまったら、全てが変わってしまう気がしてしまう。

心の奥に閉じ込めた気持ちを引き出さないで。


この腕は私の物じゃないんだから。



「...瑠樹..」

苦しそうに呼ばないで、私の心が揺らいでしまう。



誰か...助けて。


ハラハラと流れ出した涙の意味を教えて。


苦しいのに、辛いのに、抱き締められた温もりに心がざわめくの。


この温かさは昔と何一つ変わってないね。


柊...あの頃が蘇ってしまうよ。