あの日あの時...あの場所で







近付いてくる気配。

自然と動く足は後方へと下がっていく。


思わず上げた顔、捉えられた視線に思わず息が止まった。


ジリジリと追い詰めるように、詰められる距離に足が震えたけど私は下がるのを止めなかった。


柊と私の静かな追いかけっこは、私の背中が壁にトンとぶち当たった事で終わりを告げる。


縮まった距離に思わずゴクッと生唾を飲む。



「...瑠樹」

私の名前を呼んで、由來が片手を私の顔の横にドンとついた。


こ...これは、もしかしなくても、壁ドンとか言うヤツですか?


ただでさえ、柊の顔が近距離になってドキドキしっぱなしなのに、壁ドンはダメだよぉ。


柊の視線に耐えられなくて思わず目を瞑った。

今の私には、これしか出来ない。


お願いだから、私を惑わさないで。




「瑠樹...頼むから俺を見てくれ」

絞り出した様な柊の言葉に胸が締め付けられた。


ゆっくりと閉じていた目蓋を開けば、そこには眉を下げた情けない顔の柊が居て。


「...柊?」

どうしてそんなに苦しそうなの?


貴方は私なんて忘れて幸せになってるんでしょ?


なのに、どうして辛そうなの。




「...瑠樹に会わす顔なんて俺にねぇのは分かってる」

「.....」

「もちろん、もう二度と会わないつもりで離れた」

あぁ...分かってたけど、苦しいよ。


「...だ、だったら..」

どうして?と言いたいのに唇が震えて声になら無かった。


肝心な時に私は何をしてるのよ。


柊を前にしたら、その辺の女の子達と変わらないぐらい弱虫になってしまう。



会ったら言いたかった文句も、聞きたかった疑問も沢山有ったはずなのに、何一つ言葉にも出来やしない。


この空間から逃げ出したくて仕方なかった。


こんなにも苦しいなら会いたくなかったよ。