あの日あの時...あの場所で











豪に手を引かれて屋敷へと戻る。


夕暮れの街並みはどこか寂しくて。

たった、数十メートルの距離なのに、凄く遠く感じた。



昔もこんな風に手を繋いでこの道を歩いた。

思い出すのは懐かしい日々。


幼さの残る私の手を引くのは、幼さの残る柊。

私達は互いに子供で、何一つ現状を打開する術を持たずに寄り添ってた。


メイド達の仕打ちが嫌で屋敷に帰りたくない私と、一人の部屋が嫌でアパートへ帰りたくない柊。

いつも、時間の許される限り、あの公園で過ごした。


帰りたくないと駄々を捏ねた私を柊が、今の豪の様に手を繋いで連れ帰ってくれた。


心配する人が居るのだからと柊が言う。

確かにパパや咲留は、私が居ないととても心配してくれる。

でも、あの頃の屋敷には私の居場所なんて何処にもなくて。

こうやって送って貰うのが嫌だったなぁ。



あの頃の私には、柊の隣だけが唯一存在出来る場所だったな。


柊からは離れないって思ってたのに、それは幼いゆえの幻想だったね。


それが今じゃ...別々の道を歩いてる。


茜色に染まった空を見上げた。

物悲しいその色は、私の心の隙間に入り込む。


少し息が詰まる。

寂しさなのか、悲しさなのか、よくわからない思いが沸いてくる。



「どうかしたか?」

私の異変に気付いた豪が不思議そうにこちらを見下ろした。


「...ん、ううん。夕日が眩しいなと思って」

空を見上げたまま目を細めた。


今この胸にある思いは豪には知られちゃいけない。



「だったら、わざわざ見上げてんな」

クククと笑う豪。


「ちょっとぐらいセンチメンタルに浸りたかったのよ」

冗談めかしてそう言ってから、プクッと頬を膨らませて豪を睨む。


「センチメンタルは、良いが太陽はあんまり裸眼で見んなよ?目を痛める」

現実的な事を言われてしまう。


まぁ、確かにそう言われたらそうなんだけどさ。


皆さんもお気をつけください。

夕日とは言え侮れません。



「豪は少し情緒とか知った方がいい」

夕日の綺麗さに魅せられるとか、たまに良いと思うよ。


「...フッ...俺に情緒が似合えばな?」

鼻で笑われた。

確かに、豪とは無縁なモノに思えなくも無いけどね。


豪が乙女チックな思考を持ってても.....引くかも。

妙に納得してしまった。