押し倒した瑠樹の足に触れる狼王の手を、今すぐに捻り上げて、止めろと怒鳴りてぇ。
俺にそんな資格なんてなくてもいい。
瑠樹を汚されるのを阻止できるなら。
たとえそれが、南と西の戦争の火種になったとしてもな。
瑠樹に触れんな。
瑠樹は、簡単に汚して良い女じゃねぇぞ。
瞳に灯るのは激情の炎。
全てを焼き尽くしても、瑠樹だけを守りてぇ。
後少しで飛び出す所だった。
狼王は瑠樹の額に口付けて、優しく微笑んだんだ。
そして、瑠樹に手を差し伸べてその体を起こしてやると意地悪く口角をゆるりとあげる。
男の俺でもドキッとしちまうほどに、それは妖艶で。
瑠樹があいつに惹かれたとしても不思議はねぇよな。
悔しいけど、あいつは容姿だけなら芸能人も霞むほどだ。
それに付け加えて、瑠樹を大切にしてる。
あの冷血な奴でも、瑠樹には慈しむ様な瞳を向けんだな?
心がざわざわした。
瑠樹が何かを言いながら無邪気に狼王を睨み付けてじゃれてる姿に、溜め息が出る。
気を許してるからこそ、瑠樹はあんな風に笑う。
昔は俺しかしらなかったそれ。
今は違う奴に向けてんだと思ったら、無性に寂しく思えた。
自分で瑠樹を遠ざけたのに.....。
瑠樹を取り戻したいと欲が出る。
瑠樹の髪に触れる奴の手を今すぐにでも振り払いたい。
触れて良いのは俺だけだと主張したい。
......出来ねぇのにな。
馬鹿だな、俺は。
こんなに苦しいのに、指を銜えて見てる事しか出来ねぇなんてよ。
二人の繋がれた手。
家路につく二人を見送る俺の胸の中は、公園を包み込む夕陽の朱の様に、激しい色を煮えたぎらせていた。
遠ざかっていく背中。
今すぐ走りより、奪い去りたい。
伸ばした手は空を掻く。
「瑠樹...」
口から溢れ落ちたのは愛しい女の名前。
なぁ?噂の通り、お前はもう狼王のモノなのか?
頼むから...誰のモノにもなんなよ。
お前が欲しい。
どんな罪を犯しても...瑠樹が欲しくて堪らねぇ。
公園の入り口を出る瞬間、不意に振り返った狼王に慌てて姿を林の中に隠した。
鋭く睨み付ける様な視線は俺の存在を知ってるかのようで。
奴の挑戦的は視線は、宣戦布告のように思えた。
まるで、奪えるなら奪ってみろ!そんな風に言われてる気がした。
握った拳に力が入る。
俺は何も出来ないまま、狼王と瑠樹の背中を黙って見送った。



