あの日あの時...あの場所で









あの小さな背中を抱き寄せてぇ。


掻き立てられる欲情。


この腕の中に、大切にしまいこみたい。


無理な事ぐらい分かってるけど。


少し声をかけるぐらい良いんじゃないか?

あの瞳に写るぐらい良いよな?


そう思って、一歩踏み出そうとした俺の視界に移ったのは狼王の姿。


ポケットに片手を突っ込んで気だるそうに、公園の入り口から歩いてくる。



俺は踏み出しかけた足を戻して気配を消した。

今ここであいつと対峙するのは得策じゃねぇし。


瑠樹を無駄な争いに巻き込みたくねぇ。



ぼんやりとベンチに座ってる瑠樹は、狼王の存在に気づいてねぇ。


狼王は着実に瑠樹の元へと向かってる。


モヤモヤとした何かが胸の奥に沸く。

なんの躊躇もなく瑠樹に近づける狼王に嫉妬する。

本当ならば瑠樹の側に居るのは俺だったのに。



気配を消して瑠樹の背後に迫る狼王の表情は、今まで見たことがねぇほど穏やかで、瑠樹に惚れてんのが一目瞭然だった。


あの噂も嘘じゃねぇって事か?

チリチリと痛む胸の奥。


狼王が瑠樹に手を伸ばす。


驚いたように振り向く瑠樹は、やっぱり愛らしくて。


距離があるから、話す声までは聞こえて来ねぇが、二人は見るからに親しげで。

俺の入り込む余地なんて無いように見えた。


瑠樹はあいつが好きなんだろうか?

考えるだけで苛立つ。


心のどこかで、瑠樹は俺を思っててくれるなんて自惚れてた。


自分かあいつを手放した癖に都合の良い話だよな。


勝手に瑠樹の前から姿を消して、瑠樹以外の女を抱いてきた。

...んな俺が、あいつに思ってもらえる訳ねぇな。


ざまぁねぇわ。


瑠樹に寄り添うように座った狼王に、嫉妬で狂いそうになる。


近寄んなよ、触れんなよ。


瑠樹を汚すのは.....止めてくれ。


瑠樹を守りたくて、俺が離れたのに狼王なんかがあいつの男とか意味ねぇじゃん。




狼王と瑠樹が楽しげに話すをこれ以上見てらんねぇ。

どんな拷問だよ。


俺は側に近づくことも出来ねぇのに.....。




「...チッ」

キリリと噛み締めた奥歯。


瑠樹が狼王にベンチへと押し倒されていく。

戸惑いに揺れる瑠樹の瞳。


助けに向かいたいと体が動こうとする。


噂通り二人が恋人ならば、俺の出番なんてねぇってのにな。

今すぐ、あの場所から連れ出してぇと思っちまう。