あの日あの時...あの場所で





どれぐらいそうしてただろうか?

瑠樹を木陰からただ見つめるだけ。

ストーカーかよ?

自分でもそう思うけど、どうしてもこの場を去れなかった。

今に泣き出しそうな顔をする瑠樹に駆け寄って、この腕に抱き締められたらどんなに幸せだろうか?

何度もそう思った。


その度に痛む心。

この手は汚れてる。

広げた両掌を見下ろす。


瑠樹じゃない女に幾度も触れた手。

ただ自分の欲望を満たすだけに...。

言い寄ってくる女を拒まずに抱いた。


虚しいだけなのに。

心の奥底に広がるどうしようもない思いを消すために。

女を抱き続けた。


「俺は汚れてる」

漏れ出た声は風に掻き消される。


瑠樹......こんなに近くに居るのに。

お前が遠すぎる。


夕日に照らされる瑠樹はとても輝いて見えた。

あんなに綺麗な瑠樹を俺が汚すことなんて出来ねぇな。



なぁ?瑠樹、お前はもう狼王のモノなのか?

あの噂が本当なら...どうすれば。

いや、どうしようもねぇな?


俺には何も言う資格もなけりゃ、何も出来ねぇ。

噂通り、瑠樹が狼王の女だったとしてもな...。

そう思うのに、嫌で嫌で仕方ねぇ。

瑠樹に狼王が触れるなんて虫酸が走る。