あの日あの時...あの場所で







心地よい振動と、少し気疲れした体は波長を合わせたようで、私はゆっくりと眠りに誘われた。


夢を見た。


多分幸せな夢。


覚えてないけど、夢の中の私は心から笑ってた。


現実の私はそんな風に笑えているのだろうか?



大切なモノが掌からこぼれ落ちてしまう私は、本当の意味での幸せを手に入れる事が出来るんだろうか?



ふわりとした感覚の中で揺蕩う私は、現実逃避しているにすぎないのかも知れない。





「お嬢様、到着しました」

その声にゆっくりと目を開けた。


視界に広がったのは夕日と、乗り込んだ時と変わらない車内。


ああ、そうだ、現実世界だ。


屋敷に到着したんだと知る。


窓の外に目を向ける。


門を潜った車は建物の正面玄関に横付けられていた。


数人のメイドと、執事頭のおじいさんが出迎えに来ていた。


昔の光景が不意に過る。


ズキズキと痛みを帯びる頭。


私に嫌がらせをした人達がもう居ないのは分かっているのに、拒否反応をみせる体。


ハハハ...一度植え付けられた恐怖はそんなに簡単に消えやしないのね。


もう、大丈夫だと思っていたのに。


降りなきゃいけないのは分かっていても、どうしてもドアに手を掛けられなかった。




「大丈夫ですよ。ここに貴女を苦しめるものはありません」

運転手さんの優しい声と優しい笑顔。



「...はい...そうですね」

うん、そうだ。

闇に引きずられちゃダメだね。


ぎこちなくだけど、笑みを返せたと思う。




「お帰りなさいませ」

と言う言葉と同時に開いた後部座席のドア。


ドアを開けてくれたのは執事頭だった。



「ありがとうございました」

運転手さんにお礼を言って車から降りた。




「「「おかえりなさいませ」」」

私に向かって頭を下げてくれたメイド達の中に、私に嫌がらせした人は当然いない。


分かってるのに強張る体。

本当、成長してないなぁ。



「お帰りなさいませ、お嬢様。お久しぶりでございます。お元気でようございました」

メイドの中から一歩歩み出たのは、古株のメイド頭の米子さん。


年を取った顔を歪ませて瞳に涙を浮かべていた。

三年前、彼女だけが私に味方した唯一のメイド。


メイド達からの嫌がらせが発覚した時、自分の監督不行き届きだと土下座して謝ってくれたんだ。


「ただいま。米子さんも元気そうだね」

米子さんに向かって微笑んだ。