あの日あの時...あの場所で






パパが言うように、確かに料理は美味しかった。

少しずつ出てくる量もちょうど良いし。


「どうだい?味はいけるだろ?」

ノンアルコールのシャンパーニュを口にしながら、パパは微笑む。


「うん、確かに美味しい。どうやって作るのか興味ある」

味を探究してしまう。

ま、フランス料理なんて作れないんだけどね。



メインの子牛のヒレ肉の煮込みが絶妙だ。

口に入れると溶けるんだよ。



「本日のお料理はいかがでしょうか?」

背の高い帽子を被ってコックコートを着た男性がテーブルまでやって来た。


「松島君、今日も美味しかったよ」

どうやら、知り合いらしい。


「それは良かった。二階堂様が愛娘をお連れだと伺って、普段よりも気合いを入れました」

優しそうに微笑むこの人がこの料理を作った人みたいだ。


「娘も気に入ったようだよ。瑠樹、彼はここのメイン料理長の松島君だよ。彼は私の古い旧友でもある」

紹介されたので、

「初めまして、瑠樹です。お料理とても美味しかったです」

と微笑んでみた。


「初めまして松島です。二階堂様にこんなに愛らしいお嬢様がいらっしゃるなんて驚きました。うちの息子の婚約者になって欲しいぐらいです」

大人の微笑みを浮かべた松島さん。


「む、無理だ無理だ!瑠樹は誰にもやらんぞ。例え松島の息子でもな」


「ちっ、けちくせぇな」

パパに顔を近づけた松島さんは毒を吐く。


さっきの紳士的な態度は対外的なモノらしいと納得する。


「あ...お前、その口の聞き方。こっちは客だぞ」

冗談ぽく怒るパパはどこか楽しそうで。



この二人が互いに信頼しあってるのが垣間見れた。



「ククク、まぁ、またゆっくり飲もうぜ」

手でクイッと飲む振りをする松島さんに、


「ああ。スケジュールを調整する」

と口角を上げたパパ。



「では、そろそろ、当店自慢のドルチェが運ばれて参りますのでご堪能ください」

言葉遣いを変えた松島さんは、恭しく頭を下げると厨房へと戻っていった。




「あいつ、二重人格だから気を付けろ」

クククと彼の背中を見送ったパパはどこか楽しそうで。


「パパの悪友だと言うことは分かったわ」

と笑った。



松島さんの言う通り運ばれてきたドルチェ。


確かに店の自慢にするだけあって、舌が蕩けるほど美味しかった。