あの日あの時...あの場所で










「では、帰りにお迎えにあがります」

店頭に横付けされた車のドアの前で頭を下げるのは桜井さん。


「ああ、よろしく。さぁ、我が姫様行こうか?」

桜井さんに頷いてから私に肘を付きだしたパパ。


「うん。桜井さん行ってきます」

パパの腕に自分の腕を絡めて、桜井さんに手を振った。



「はい、楽しんでいらしてください」

丁寧に頭を下げる桜井さんに見送られて、豪華な造りの店内へと入った。



ここは、テレビでも紹介されるぐらい有名なフレンチのお店。


ちょっとしたドレスコードまである。


大人びたワンピースを選んで着た自分を誉めてあげたい。




「いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました、二階堂様」

黒いスーツを着たコンシェルジュが、笑顔でフカブカト頭を下げた。


「ああ、いつもの席を予約していたのだが」

そう話すパパは普段と違って威厳があった。


「はい、ご用意させていただいております。君、二階堂様をご案内して」

コンシェルジュは隣に控えていたクラシカルな給仕服に白いレースのエプロンを着けウェイトレスに指示を出す。



「はい。二階堂様、こちらへどうぞ。ご案内いたします」

シルバーのトレイと高級そうなメニューを小脇に抱えたウェイトレスが、丁寧に頭を下げると私達を誘導した。



少しライトを抑えた店内、静かに流れるピアノの調べ。


着飾った人達が、気取って食事を取る店内を案内されるままに歩いた。


普段受けるようなあからさまな視線じゃないが、チラチラと向けられる視線。


パパに向かってるんだと言うのは一目瞭然で。


パパはテレビや雑誌にも取り上げられるほど有名なやりて社長だからね。

ここにいる上流階級の人達にとっては、媚を売ってもお知り合いになりたい人だと思う。


下品な声かけと妬みの視線が無いのは、身分と立場を弁えてる大人だからだろうか?


ま、この人達の腹の中は真っ黒だろうけどね?


パパの視界に入ろうと自然に見せかけて視線を送ってくる人達に冷めた表情を向けた。





「こちらでございます。とうぞ、お嬢様」

そう言いながらトレイとメニューをテーブルに置いたウェイトレスは、私の座る椅子を引いてくれた。


「ありがとうございます」

頭を下げて促された椅子へと座る。


パパの座る椅子は後ろからついてきていたコンシェルジュが引いてた。


「飲み物が決まりましたらご注文ください」

ウェイトレスがメニューを開いて手渡してくれる。


去っていくコンシェルジュとウェイトレスを見つめながら、小さく息を吐いた。


堅苦しい空気は慣れてないから疲れる。