あの日あの時...あの場所で








豪をギャフンと言わせてやる。


こう見えて、乗馬は得意なんだからね。



「競馬なんて見たことねぇけど、そういや小せぇ気もすんな?」

クククとシニカルに笑う豪。


くっそぉ~!

ちょっと、自分が大きいからって。


「豪なんて、タンスの角に小指をぶつければいいんだ」

フンと顔を背ける。



「タンスって古典的だな?クハハ。しかも地味な呪いだし。まぁ、拗ねんなよ。冗談だから」

よしよしと頭を撫でるのは止めて。


豪はいつも私を子供扱いするんだから。



「い~っだ!」

何てするから、子供扱いされるんだとは思うけど。

ま、これはこれで楽しいのでいいかな?


「ククク...ま、せっかく行くんだから、色々楽しもうぜ」

そんなことを言って優しく微笑んでくれるから、豪は嫌いになれないんだ。



「うん、楽しむ」

青い芝生、広い牧場....雄大な自然を想像して思わず笑顔で頷いた。




豪はそんな私を満足げに見下ろした後、いつもの様に腕組みをして目を瞑った。


この静寂は嫌いじゃない。


豪の作り出す空気は、意外と好きなんだ。



逸る気持ちを抑えながら、窓の外へと視線を向けた。


流れるように進む車。


それと同様に流れていく景色。


街の喧騒はドンドンと遠ざかっていく。


前方に聳え立つ大きな山を目指す私達。


目的の場所は、あの山の麓にあるんだ。


日本に来てからずっと自然とは離れていたから、ワクワクが止まらない。


おばあ様の屋敷の庭で番犬達と駆けずり回った日々を思い出した。

彼らは元気にしてるだろうか?


先日届いたエアメールには、元気に走る二頭の姿が写された写真が同封されていたけど。