あの日あの時...あの場所で






「どうかしたの?パパ」

と聞けば、

『あ~いや、今夜食事でもどうかと思ってね』

と言われた。


「あ...今日は無理だけど明日なら大丈夫だよ」

今日は豪達と出掛ける約束だから、帰りが何時になるかなんてわかんないし。


『あ...そ、そうか。じゃ明日にしよう』

遠慮がちなパパの声。

この人は昔からこんな感じだ。


私と亡くなったママへの罪悪感に縛られたままじゃないのかと思う。


「うん、分かった」

『久し振りに家族で食事を楽しもう。咲留には私から連絡をしておこう。そうそう、迎えを夕方の4時に差し向ける様にするよ。今から明日が楽しみで仕方ないね。瑠樹は何が食べたいかな?』

テンションの上がったパパはマシンガントークを始めた。

これはいつものこと。


私に対しての接し方に戸惑ってしまうのか、こうやって話してるとネジが1本飛ぶみたい。


「...パパ、分かったから落ち着いて」

『あ...お、おぉ。そうだね』

業界で名の知れた鬼社長と呼ばれてる面影なんて何処にもない。


私達の親子は、未だに間にある溝を埋めきれていないと思う。

互いに歩み寄る努力はしているけれど、そう簡単なことではないんだ。



「明日、楽しみにしてるね」

と告げて電話を切った私は、少しだけホッとした。


パパが、必死に私達の間にある溝を埋めようとしてくれてるのが分かるから、しんどくなる。





妻子のある身でママと関係をもったパパ。

政略結婚の上の冷えきった夫婦だとしても、私を作るべきでは無かったと思う。

ママもまた妻子ある人に体と心を許し間違った道を進んでしまった。

私を身籠り、一人で育てる決意をして実家のおばあ様と縁を切ってまで自分の意思を貫き通した。

私のために必死に働いて私を育ててくれた。

だけど、その為に体を壊して私を置いて旅立ってしまった。

あの時の虚無感は今も私の中に残ってる。


一人になってしまった恐怖と戸惑いと。

子供ながらに感じだ憤り。

もちろん、ママを嫌いな訳じゃない。

細腕で一人、私を育てて愛情を注いでくれたママは大好きだ。


パパの事だって好きだ。

ママ亡き後、私を引き取り愛情をかけてくれた。


だけど、大人のエゴに振り回された苦しみが心の奥底にまだ燻っていて。


私の中で、どうにもならない靄になってしまってる。