あの日あの時...あの場所で








「豪、なに難しい顔してるの?」

スプーンを銜えたままこちらを見る瑠樹。


...っ...計算なしでこれだからな...思わず漏れる溜め息。


「なんでもねぇよ。ぼーっとしてただけ」

考えてた内容なんて話せる訳ねぇし。


「熱中症?」

伸びてきた瑠樹の手は俺の額に触れる。


柔らかくて小さなその手にドキッと心臓が音を立てる。


「熱はないかぁ。水分と塩分の補給した方が良いよ」

すっと引いていく瑠樹の手に寂しさを感じた。

こいつは、躊躇もなく俺に触れてくる。


咲留さんに触れるように。


男として意識されてないのなんて分かってる。


だけど、一歩踏み込んでこの関係が壊れちまうのが怖い。


瑠樹とのこの関係が今の俺には、とても大切だった。


踏み込んで拒絶された時、この関係まで無くなってしまうのが嫌だ。

瑠樹に触れられなくなるのは、とても辛いんだ。

だから、瑠樹が気付いた時に、俺の側を離れられなくなるほどに、俺の存在を瑠樹の中に植え付けておきてぇ。


甘やかして、大切にして、俺が居なきゃ生きられねぇぐらいに依存させてやる。


異常だと笑われても良い。


それぐらい瑠樹が欲しくて堪らねぇんだ。


咲留さんよりも、誰よりも、瑠樹の側に居るのが俺でありたい。



「ちょっと、睡眠不足なだけだ。心配ねぇよ」

俺を心配そうに見る瑠樹にクククと笑ってそう告げる。


「寝不足?」

小首を傾げた瑠樹に、


「後数日で、夜叉の巣窟の明け渡しが有りますからね。色々と準備に忙しいんですよ。向こうに移るまでの辛抱です」

と説明したのは夏樹。


「そっかぁ、移るのも色々有るんだね。私に出来ることがあったら言ってね」

と俺を見た瑠樹の頭をやわやわと撫でた。


「ありがとうな?そんときは頼む」

「うん、いつでもどうぞ」

その微笑みで、疲れもぶっ飛ぶ。


夏樹の言う通り、夜は明け渡しの準備で色々忙しく動いてる。


源治さんの後を引き継いで頭になるためには、系列への挨拶や今後の方針を詰めたりしなきゃなんねぇ。


面倒臭せぇけど、あの場所はそれほどに大事で、大きな意味を持つ場所だから仕方ねぇ。


俺が南の頂点だと言われてても、それは高校のガキの間での話で。


源治さんや咲留さん達から見れば、ただのガキの遊びにすぎなくて。


あの人達が作り上げた平和の上に成り立ってる遊びなんだ。



そんな人達が統べていた場所を引き継ぐと言うことは、重みと大きな意味を持つ。