あの日あの時...あの場所で







「やっぱり一先ず下ろそうか」

ほら、倉庫に居る人がさ、皆に怪しむように見てくるし。



「えぇ、無理無理。せっかく抱っこしたのに無理」

唇尖らせるな!
  
美形はどんな顔を美形なのね。



「皆見てるし、恥ずかしいから離そうか」

抱っこされたまま周囲を見渡した。



「瑠樹が可愛いからってお前ら見んじゃねぇよ」

ちょっと、ちぃ君凄んじゃダメじゃん。


ほら、皆、顔青ざめさせたし。



ビビるヤンキー達の間をズンズンと進んでいくちぃ君は、きっと強者だ。



私は仕方なく抱っこされたまま、倉庫の中を観察していた。


恥ずかしいとか言うわりに、度胸が座ってる!とか、思った人、人間割りきりが大切なんですよ。



思ってたよりも広い倉庫は、綺麗に整頓されていて、バイクを弄ってる人や、テーブルゲームを楽しんでる人、床に寝転がって寝てる人なんかがいた。

本当に、好きなことをするために溜まってるらしい。


咲留に聞いていた通りの場所なんだと思えた。






「こら!千景、瑠樹を返しやがれ。」

般若の様な顔をして、低い声で叫んだ咲留が物凄い勢いで走ってくる。


何事かと、皆目を丸くしてるじゃん。


うちのお兄ちゃんは何をやってるのかな?


咲留の後ろからは健も走ってくる。



「あっ、煩いの来たねぇ。」

涼しげにそう言ったちぃ君は、私を抱いたまま走り出す。


追いかけっこじゃありません。


ぐわんぐわんと揺れるので、走ってほしくないんだけど。



「ち、ちぃ君、酔う、酔うから。」

落とされまいとちぃ君の首にしがみついて訴える。



「もうちょっとだけ、我慢して。」

汗もかかずに、息も乱さずに私を抱いたまま、倉庫の鉄階段を掛け登っていく。



ひ、ひえぇ~落ちるぅ。


余りの怖さに目を瞑った。


神様どうかお助けを。




「くそっ!待て千景。」

咲留が叫んでる。


追いかけてくんな!私の身が危ないでしょ。