「あ...や、俺、怪しい者じゃないから。はい、これ」
余計に怪しいんですけど。
だいたい、今の言葉って怪しい人の常套句じゃない?
「......」
差し出された帽子を受けとるために手を伸ばすことを躊躇う。
茶髪に前髪に白メッシュって、如何にも!な感じだし。
あぁ、こんなことなら夏樹を断るんじゃなかったなぁ。
実に面倒臭い事態になった。
「いや、本当、怪しくないよ?」
「.....」
彼が一歩近づくと、私は一歩後ろに後退する。
「瑠樹ちゃん...だよね?」
どうして名前知ってるの?
本当怖いんですけど。
いざとなったら戦うしかない。
水着にパーカーだけど、抵抗ぐらいはしなきゃ。
林の中になんて連れ込まれちゃ堪んない。
ま、見た感じ女の子受けしそうな容姿をしてるから、女の子には不自由してなさそうだけどね。
目の前の焦ってる彼を観察する。
真っ黒いサングラスと首から下げてる双眼鏡が怪しさを増幅させてるのは間違いない。
「と、取り合えず、先にこれ」
腕を最大限に伸ばして麦わら帽子を渡してくれたので、私も距離を取りつつそれを受け取った。
陽射しがキツいので、速攻被る。
紫外線は大敵です。
「...ありがとう」
拾って貰ったお礼は言う。
「いいえ、どういたしまして」
愛らしく微笑まれた。
本当...誰?
ってか、さっさと帰ろ。
彼の周りを大きく回って屋敷の方へとゆっくり足を向ける。
屋敷に入れば誰かが助けてくれるに違いない。
「あ...ちょっとだけいい?」
「.....」
そりゃ、簡単には帰して貰えないよね。
「本当怪しくないから。あっ、昨日会ったの覚えてない?」
思い出したように言われて首を傾げる。
新手のナンパか?
「...知りません」
相手から目を逸らさずに答える。
毛を逆立てた猫みたいに威嚇してる私に、目の前の彼は苦笑いで。



