あの日あの時...あの場所で







「あ、そう言う事ですね。着やせして見えるんですよ。これでも自主トレしてますしね。強さもなければ狼王の側近はやってられないですからね」

一瞬鋭い瞳になった夏樹は不良の顔をしていた。


「夏樹も豪達と同じ不良なんだなぁ」

改めてそう思った。


「あれ?違うと思ってましたか?」

クスクス笑ってそう聞かれた。


「うん、夏樹っていつも穏和だから不良って感じがしなくてさ。豪や大翔は見た目から不良だけど」

フフフと笑ったら、

「ええ、そうですね」

と頷いた。


この姿を見てても好青年にしか見えませんよ。




「ね?別荘に誰か居るかな?」

一度帰ってシャワー浴びたいなぁ。

汗でベタベタするし。


「ええ、数人は居ると思います」


「じゃ、鍵空いてるよね?」


「はい、そうですね?」

それが何が?と首を傾げた夏樹に、


「一回戻っても良い?」

と聞いた。


「ええ、それは構いませんが。どうしました?」

「シャワー浴びたくて。汗かきすぎてキモチ悪い。寝たから余計にね?」

「ああ、そう言う事でしたら良いですよ。一緒に行きます」

立ち上がった夏樹を、


「大丈夫、一人で戻れる」

と押し止める。


「いや、それは...」

と困ったように眉を寄せる夏樹。


「大丈夫だって!ほら、すぐそこに見えてるし迷わないよ」

距離にして10メートルもないしさ。


別荘の入り口は、少し小高くなってるから見えないけど、危ない要素は全くない。


「いや、それでも何かあると困ります」

とはっきり言われた。


「本当、大丈夫よ。行く道にも王凛の人達がちらほら居るし。何か在れば叫んだら届く距離でしょ」


「ま、そうですけど」


「心配ならここから見てて。それだったら良いでしょ?」

あんなに近いのにわざわざ付いてきて貰うのは気が引けるし。


小さな子供だって迷わない距離よ?


「.....」

夏樹はどうしようか考えてる。


「ね?お願い。たまに一人になりたい。走って戻るし」

うるうると瞳を潤ませて夏樹を見上げてみた。


「はぁ...分かりました。ここから見てるので行ってください」

夏樹が折れた。


「やった!ありがと、夏樹」

キュッと抱きついた。


「あ..っと...色々な意味で豪に怒られそうな気がします」

そう言った夏樹の顔は苦笑いだった。




「行ってきます」

サンダルで駆け出した私を、優しく微笑んで手を振って見送ってくれた。