あの日あの時...あの場所で






ちぃ君に、口元に手を当ててクスクス笑ってる場合じゃないからね。


女の恨みは女に向かうのよ。


ほら、その証拠にめっちゃ睨まれてるんですけど?


穴空くから止めて欲しい。


どんなけ目力使うのよ?疲れちゃうよ。



咲留の肩越し、後々面倒臭い事になると困るので、殺気を孕んだ瞳で睨み返しておいた。


咲留がやる前に、やっちゃうからね?



ビクンと瞳を揺らした彼女を見て、私に関わる事はないだろうと確信した。


その場に立ち竦む彼女は、もう何も言わずに私達を見送る。


私は満足げにゆるりと口角を上げた。



「怖いねぇ。その可愛い顔であの睨みは」

私達のすぐ後ろをついて歩いてきたちぃ君が楽しそうに笑う。



「うっさいし。ってかナンパも相手見てよね?」

元はと言えばちぃ君のせいでしょ?



「俺じゃないよ。あんな女ナンパしてないし。勝手についてきたんだぜ?」


「他人事みたいに言うな。あの女のツレをナンパしただろうが」


不機嫌な咲留の声。



うん、確かに咲留の言う通りだよね。



「えぇ~ンなの知らねぇし」

ああ、ちぃ君てこんな人だったわ。

色々とだらしないんだよね、この人。


悪い人じゃないんだけどさ。








「待って待ってぇ~俺も行く」

走って追いかけてきたのはさっきのチャラ男。


えっと、確か庄司健、だったよね?



「あれ?健も居たの?」

と聞いたちぃ君に、


「こいつ、俺の瑠樹をナンパしようとしてたんだぞ」

そう言って振り返って健を睨み付けた咲留。




「ハハハ...お前バカだよな?普通、瑠樹に手を出すなんて考えねぇよ」

バシバシと健の肩を叩いたちぃ君。



「し、知らなかったんだよ。咲留の女だなんて」

唇を尖らせた健。


おい、今なんて言った?


彼は激しく誤解してるらしい。


咲留の彼女じゃなんて冗談じゃないわよ。