「咲留くん。急に居なくなっちゃうから寂しかったよぉ」
倉庫のドア付近にやって来た咲留に上目使いで猫なで声を出す女。
鳥肌立ちそうなんですけど?
「うぜぇ、どけ」
ドアの前に立つ彼女が邪魔で中に入れない。
「もう、咲留君てばつれな~い」
咲留の冷たい視線にもめげない女は凄い。
「......」
ほら、咲留が口利くのも止めたじゃん。
なんとなくさ迷わせた視線の先に、楽しげに口角を上げるちぃ君を発見。
あの人、今の状況を面白がってる。
ほんと、やれやれだよ。
咲留がどんどん不機嫌になっていくのだから、ちぃ君が止めとくれよ。
自分の巻いた種なんだからさ。
そんな思いを込めてちぃ君を見たのにひらりと手を振って他人事の様に構えてらっしゃる。
色々と面倒臭い。
はぁ...溜め息を漏らした私は間違いじゃないはずだ。
「どうした?瑠樹疲れたか?」
そんな心配そうな顔で覗き込まないで。
ってか、目の前の睫毛オバケが物凄い形相で睨んで来るんですけども?
「何でもない。早く座りたいだけ」
この縦抱きもされる方も疲れるのよ。
「じゃあ倉庫いくか?」
「うん」
この空気は本気で疲れるし、睨まれてるとイライラする。
「じゃ行こうな」
なんて微笑んだ咲留は、睫毛オバケに向かった殺気を放った。
「どけ」
そのまま無言の圧力をかける。
「...ひぃぃ」
女は小刻みに震えなから体を避けて道を開けた。
「初めから退いてろや。さ、行こうな?」
咲留は面倒臭そうに女を睨むと、私を大切に抱き締めて歩き出した。
「...そ、その子はなんなの?」
睫毛オバケが遠慮がちにかけてきた声に、
「大切な女だ。こいつに何かしたら殺してやるからな」
女を振り返る事もなくそう答えた咲留。
いや、だから...その言い方は、また誤解を生むでしょうよ。
こんな咲留は何度も誤解を招き、何度か面倒ごとに巻き込まれたんだよ、昔もね。



