あの日あの時...あの場所で






「夏樹は、夜に花火をするとか言って、沢山花火を買い込んでたぞ」

それは夏樹の気遣い。


「うん、楽しみ」

だから、私は笑うんだ。


皆が様子の可笑しい私を心配してくれて、気を使ってくれてるんだもん。


「ああ、きっと楽しくなる」

豪は私の頭を大きな手で優しく撫でてくれる。


「うん、だね」

私がそう返事を返した辺りで、運転手さんが運転席に乗り込んで車は静かに走り出した。


どこへ行くのか聞かされてないけど、豪と一緒なら安心だもんね。



「向こうに着くまでは二時間ぐらい掛かるから、眠ってて良いぞ」


「えっ、二時間も掛かるの?」

あらら結構遠出なのね。


「ああ、着いたら起こしてやる。朝早かったから眠いだろ?」

「あ、うん。」

そう言われればそうかも。


「それはそうと、腹は減ってねぇか?」

「あ、何も食べてない」

そうだ、朝御飯食べてない。

起きてすぐに朝風呂に入ってから急いで用意したから、食べる暇無かったんだよね。



「じゃあ、高速に乗ったらサービスエリアで休憩するか。その時に何か食おうぜ」

「うん、食べたい!」

最近のサービスエリアは、食べ物とか充実してるんだよね。



「ククク...食い物の事になると目を輝かすのかよ」

笑うなんて失礼な。

確かにサービスエリアで、売ってるであろう色んな食べ物を思い浮かべてたけどさ。


「良いでしょ。楽しみはそれぐらいなんだから」

ふんっと豪から顔を背けた。


窓から見える流れる景色。


私の知らない道を走る車。

人や街並みが現れては消えていく。


私の心もこんな風に流れてしまえば良いのに。


そうすれば、何も考えずに済むのに。


.....何を現実逃避しようとしてるんだか..。

そんな自分に自嘲的な笑みが浮かぶ。



「あんまり近くばっかり見てると酔うぞ」

そう声を掛けてくれた豪に、


「うん、じゃあ遠く見る」

と返して、視線を街の奥へと向けた。


街の彼方に見えるのは、ビル群。


森も山もないこの街は、世話しなく動いている。


フッとアナハイムの懐かしい我が家を思い出した。


緑に囲まれたそこは、今も綺麗なままだろうか。


おばあ様のお屋敷は、とても広くて木々や花々が惜しみ無く植えられていた。

青い芝生、そこで駆け回る犬達。


この街よりも、ゆったりと時間が流れていたような気がする。