「おはよう、豪」
自動ドアに背を向けて、エントランスの窓から外を見ていた豪に声を掛けた。
「ああ、おはよ」
振り返った豪は素っ気なく挨拶を返してくれる。
鞄を両手で持って駆け寄ると、然り気無く差し出された豪の手が私の鞄を優しく奪い取る。
「ありがとう」
と微笑めば、
「気にすんな」
と返ってくる。
豪はぶっきらぼうだけど、フェミニストなんだよね。
「行くぞ」
少し前を歩き出した豪について、私も歩き出す。
マンションのエントランスを抜ければ、すでに太陽に照らされて暑くなった空気が体にまとわりつく。
「...暑い。」
「夏だからな?」
いや、分かってますけども...。
「だって、まだ朝の6時だよ。今頃から暑いなんて、日中はどうなるのよ」
真夏の日射しはかなりキツい。
「ま、日干しにならねぇように気を付けろ。これはトランクだ」
意地悪く笑った豪は、マンション前に横付けされていた車のドアを開けて待っていた運転手に、私の鞄を手渡すとさっさと後部座席に乗り込んだ。
「んもう、ならないし。あ、おはよございます」
豪に文句を言ってから、ドアの側の運転手さんに挨拶をして後部座席に乗った。
「おはようございます」
運転手さんの言葉が返ってきてすぐにドアが背後で閉まる。
「...あれ?大翔と夏樹は?」
車内に二人がない事を不思議に思った。
「あいつら、王凛の連中と一緒に別で行く」
「学校の皆も行くの?」
それって豪の仲間の子達だよね。
「ああ、大勢の方が楽しいって大翔が声を掛けて都合のついた奴だけ参加だ」
「そっか...」
大翔の優しさだと分かった。



