美夜の声にも、自分の腕を引っ張る美夜の手にも無反応のキング。
「キングぅ~」
美夜がいくら猫撫で声で呼び掛けたとしてもそれは変わらない。
どうしたんだ?キング。
と元々、美夜は適当にあしらってた所はあるけど、今のキングは少し普通じゃない。
進み来た狼王が横を通り抜けようとした時だった。
「...瑠樹」
キングは苦しげに顔を歪めて、小さな声だったけど、愛しそうに名前を呼んだ。
美夜は苦々しく顔を歪め、俺は目を丸めた。
そして、キングの声は狼王の耳にも届いてた。
だけど、誰よりも一番早く反応したのは、呼ばれた女の子。
狼王に抱っこされたまま、顔だけこちらを向けたんだ。
彼女は驚きに満ちた顔をしていた。
うっわ、美少女.....。
時が止まった。
俺の目に写るのは、透き通るような白い肌をした青い目の美少女。
絵本の中から抜け出したかのような女の子は、俺が今まで見た女と言う部類の中で最上級に値した。
「...柊」
彼女の口から、キングの名前が吐き出される。
それは悲しげで、とても苦しそうに。
キングの瞳にも彼女の瞳にも互いしか写ってない。
狼王も俺達もそこには、存在していないかの様な.....。
二人だけの独特な空気。
この二人は...きっと知り合いだ。
俺の直感が働く。
そして、キングの名前が呼び捨てを許す唯一の存在だ。
キングは、柊って名前を呼ばれるのを凄く嫌う。
特に女の子達にはね?
以前、調子に乗った女が柊って呼び捨てして、首を掴まれて壁へと体を打ち付けられて死にそうになった事がある。
それ以来、柊と呼ぶのはタブーになってる。
俺は親友の権限で呼ぶことは出来るけど、キングで慣れてるからあんまり呼ばないけどね?
柊と呼ばれたキングが、怒りを表すことなく彼女だけを見てる。
互いに何かを言いたげなのに、なにも言えずに居る姿が...とても切ないモノに見えた。
狼王も甲斐、二人の女の子達もそして俺も、この空気を壊す事なんて出来なくて。
キングと彼女を見守っていたのに...この糞女は空気を読めない。
瑠樹と呼ばれた彼女に、キングが目を奪われてる事が気に入らなかったのだろう。
「ねぇ、キングぅ、もう帰りましょう」
甘えるように上目使いでキングに抱きついた。
その瞬間、空気が動いた。
彼女が悲しげに顔を歪め、キングは苛立たしげに眉間にシワを寄せた。
あ~馬鹿美夜は何をしてくれてんだよ。
ほんと、この女嫌い。



