あの日あの時...あの場所で











「ねぇ、もう飽きたぁ」


周囲に響いた鈴の鳴るような声。

一気にギャラリーがざわめいた。



「...チッ」

と不機嫌に舌打ちした狼王。


「あかんて」

と額に手を当てた甲斐。


二人の女の子達は顔を見合わせて溜め息をついた。


俺はニヤリと口角を上げる。

向こうから出てきてくれたと。


キングも同じ様に少しだけ口角が上がってる。




「...豪、早く帰りたい」

声だけ聞こえるお姫様は、こんな状況でもマイペースらしい。


しかも、狼王を呼び捨てなんだね?

ああ、益々君に会ってみたい。


「...瑠樹、もう終わるから」

狼王が優しい声だしてる!

ちょっと鳥肌立ったんですけど。


目を見開く俺の横で、キングが狼王の言葉にピクリと反応するのが視界の端に入る。


ほんの小さな変化だけど、キングは確かに動揺を見せてる。

俺より近くに居る美夜は気付いてないけどね、こいつバカだから。

何?キングを動揺させたのはなんだ?




「...豪、ちょっと」

「んだよ?」

甲斐が狼王にこそこそと耳打ちしてすぐだった。

「はぁ...分かった」

狼王が大きな溜め息をついて俺達に背を向けた。


何が始まるんだ?


俺達は成り行きを見守る。




「どうしたの?豪」


「俺にしがみついとけ。良いか、顔出すなよ」

狼王とお姫様の会話。


ちょっとラブいんですけど。



狼王はおもむろにお姫様らしき女の子を縦抱きに抱き上げる。


その途端に見えた長い金髪。

小さなお姫様の体は狼王にすっぽりと抱き抱えられていて。


噂の通りじゃん。


狼王がこんなにも大切そうにしてるなんて。


顔みたいなぁ。




「帰れよ。こいつを見たら十分だろ?」

お姫様を抱っこしたままこちらへと振り返った狼王。

いやいや、顔を隠されてちゃ意味ないし。


狼王の首元に顔を埋めて隠してる女の子。


俺達の返事を待たずに狼王は歩き出す。


「さぁ、桃ちゃん達も帰ろうや」

二人の女の子に声を掛けて動き出す甲斐。




「.....」

キングが可笑しい。


狼王の抱く彼女へと真っ直ぐに向かってる視線。

それは興味本意とかじゃない。



「き、キング?どうしたの?」

キングの視線を向ける先に気付いた美夜は、必死に自分へと視線を向けさせるように呼び掛ける。

空気読めよ。

こんな時に、キングにベタベタすんなよ。