「帰らなきゃ……!!」


あたしは青くなり、すぐに立ち上がる。


今からタクシーとバスを乗り継いで家に帰っていても、蒼太からの暴力は免れられないかもしれない。


そう思うと、背筋がゾクリを寒くなり恐怖で心臓が破裂しそうだった。


不安が胸の中をうずまき、どうしようもない駄々っ子のように嫌々と首を左右にふる。


「落ち着いて陽子。すぐに帰ろう」


良子さんがあたしの体を支えるようにして歩きはじめる。


嫌……帰りたくない。


折られた腕が急激に痛みはじめる。


でも、帰らなきゃ、きっと殺されてしまう。


どこにも逃げ場がなくてその絶望感から、あたしは突然嘔吐した。


空っぽの胃からは透明な胃液が出ただけで、それはまるで何もできない無力な自分自身に見えた。


透明で、どんな色にも染められて。


ドロドロとした液体で、どんな形にも変化させられる。


蒼太の思い通りに動きまわされる、液体。