僕は、君を。


奥様が寝ている部屋を出て、ぼんやりと月明かりが照らす廊下を歩き出す

奥様の家は広い

ただあるだけで、使われていない部屋が五万とある

そのくせどれもが無駄に豪華なのだ

特に考えもせずその1つにふらりと入る

テラスの様な窓辺があったので、壁に背中を預けて静かに月を眺めた

静寂が訪れる━━━

だが、その静寂はそう長くは続かなかった

パタパタと、数人の足音が、開けたままの扉から聞こえてきたからだ

「…いたわ…!」
「翠林さま…」
「あぁ…今日も儚いほどにお美しいわ…」

数人のメイドたちがヒソヒソと会話しながら、遠巻きに僕を見ている

この部屋は広いのだ

入り口付近からの僕のいるテラスまで、かなりの距離がある

その内の一人が小走りに近付いてきた

僕は月に向いていた視線を彼女に移す

それだけで彼女は赤面し、細く震え始めたが、自分に与えられた使命を果たすべく口を開いた

「ぁ…あ、あのっ!」