覚えている一番最初の記憶は

なぜだか燃え盛る部屋の中で

泣き叫ぶ母とおぼしき女性の悲鳴

「取らないで…!! 私から、幸せを…夫を…息子を、お願いだから取らないで…!!」

声の聞こえ方と、僕から見える顔の角度で、僕は女性の腕の中に居るのが分かる

床に力なくへたれこんだ状態でも

震えながら僕を力強く抱きしめた女性は

何度も、何度も

仕舞いには声がかすれて裏返っても

そう必死に懇願する

僕は女性の服に顔を押し付けるように、横抱きにされていたので

女性の顔、そして女性が懇願している相手の顔は見えない

だが―――

「あなたの幸せ??…ふふ、随分おかしな事をいうのねぇ。そんなものはもうとっくに…」

冷たい声は吐き捨てる様に、でも何処か楽しむ様に優雅に続ける

「壊れているのよ」

その冷たい声の持ち主を、僕は知っている