その意味が分かったのは約5分後


事務部の扉が開いた先から現れたアイツのせいだ。


『お疲れ様です、忙しいのにわざわざすみません。』


『いいですよ』


私はその声に一瞬顔をあげそうになるけれど時間との戦いで残りのレセに食い付くように目を走らせる


『ここなんですけど、日付が28ではなくて29ですので……』


私と香織ちゃんのデスクは隣同士ということは分かっていたけれど、突然視界に入る長い指


それが私のペンに重なりうっとおしいのでそのペンで綺麗な指を払いのける


『靖子、挨拶もなしなんてどういうつもり?』


ほんとにみんなの前で相変わらず名前で呼ぶの勘弁してよ……


絶対みんなこっち見てるし


「先生のレセプトの多さに他事考える余裕がないんですよ」



しつこくレセに手を添えるその手に思わずシャーペンを刺しそうになる

えっと……

これはっと……


あくまで検査本を取り出して無視し続ける私に香織ちゃんが印鑑を返した模様


さっさと帰れ


『ほどほどにな』


ドクン


検査本に添えられた手を冷たい指が一瞬掠めただけなのに、力が抜けて開きかけていた本がパラパラと閉じていく



…………わざとだ。