次の週の月曜日、突然それは起こった


午前中比較的穏やかだった為に他の仕事に手をかけれる私はパソコンと向き合っていた



『原田さん、これお願いします』


「そこ置いといて下さい、後でやり」


『ああっ!!!』


なにっ!!?


森井先生が私のデスクに持ってきたカルテを受け取ろうとした矢先、聞こえた奇声に二人どころか香織ちゃんや長田くん、部長が一斉に見る


『や、や、靖子ちゃんっ』


半泣きでこちらに勢いよく向かってきた主任の義理兄に、思わず体がのけぞりそうになる


『……えと、先生?靖子ちゃんが見えない……』


『はい、わざとですから』


おい!!何がわざとなのよ!!


私は目の前の白衣から何とか顔を出せば、私を見つけた顔の眉尻が思いっきり下がるのが見えた


「どうかしましたか?」


何とかその白衣を手で押し退けようとするも、面白がっているのか本気なのか動こうとしない


香織ちゃん笑ってるし……


『翠……が……破水した』


「えっ!!?………何でもっと早く言わないんですか!?」


さすがに森井先生も驚いたみたいで退いてくれたから、目の前の旦那のケータイを奪う


そこには確かにお姉ちゃんからのメール


『靖子ちゃんっ……僕』


「泣くな!!これから父親になるんでしょ?今不安なのは主任じゃなくてお姉ちゃんなの。泣く暇あったらさっさと帰れ!!」


『…………うん、分かった。』


「(しまった……!!)」



ここが職場なことを忘れてしまうくらい怒鳴った私に、届いた盛大な笑い声


恥ずかしさのあまり口元を押さえるももう遅い


『…………惚れ直した。』


ドキン


白衣の彼は、私に耳打ちするとまだ止まらない笑いを堪えながら診察室へと戻っていく


『原田君はどうする?』


「あ、もう少ししたら早退させてもらえますか?」


『靖子さん行ってください!中村主任一人じゃまた取り乱しますよ?』



それは否定できない……


全くお姉ちゃんのことになるとどうしてあんなに落ち着きがなくなるのか?


残った仕事を急いで終わらせて13時に上がらせて貰った私は一番診察室をノックした


コンコン


『はい』


「後で連絡します。」


返事も聞かずに飛び出した私はコートを羽織ってバスを待っていた。