ここは小さな町にある元町診療所


裏口から疲れのとれない足取りでいつもの扉を開けて誰もいないそこへ一礼をした



「おはようございます‥‥ふぁ…」


不謹慎ながらも止まらず小さな欠伸が出る。


いけない……


勤め初めて3年のここ元町診療所では、毎日変わらない日常を過ごしている私


真っ白な二階建ての建物は昨年塗装し直したばかり


駐車場は30台程しか停められず、殆どの患者さんはバスが多い


市の病院とは違いほんとに小規模な診療所


なのに……


なのに‥‥‥


『今日もすごいなぁ……ほんとに。』



事務部の窓に下げられているブラインドの隙間から、駐車場をそっと覗き込む我らが事務部長


そして毎朝事務部長が落としているドリップコーヒーの余りを、当たり前のようにマイコップに注ぎながらまた一つ欠伸をする私



自分のデスクの一番下の引き出しに鞄をしまい、それからパソコンの電源を押してからデスクに置かれたカレンダーに視線を落とした。


「そうですね‥‥ふぁ‥っと、並んでましたよ」


品のいいコーヒーを一口飲めば、それだけで頭が冴えていく


低血圧な私なので、更に血圧が下がっていくのを防ぐために腰をおろした


平日のみしかやってないのに、毎日患者が絶えないのはいいのだが、変わった悩みが付き物の曰く付き診療所




『原田君、今日も君にかかってる。頼むな。』


「(頼むな……って他人事)」


ギロリと目線を部長に向けてコーヒーを飲み、限られた朝の時間を有意義に過ごすのがここ最近の私の習慣だ