エイルが応えてくれないことにシェラはご立腹なのか、頬を膨らます。ご機嫌斜めになってしまったことにエイルは焦り出し、どのようにすれば機嫌を治してくれるのか思考を巡らす。
一番、いい方法は何か――
しかし考える前から、正しい回答は決まっていた。
そう、エイルがシェラの兄として振る舞えばいいのだが、生真面目なエイルがそう簡単に演じることはできない。だが、シェラの機嫌を取るにはこの方法しかなく、仕方なく兄を演じることにする。
「メルダースで……」
「そうだ! お兄ちゃん、遠い場所でお勉強しているんだった。大変なんでしょう? お勉強」
「大変……だね」
一瞬、敬語を用いそうになってしまうが、シェラの兄として振る舞わないといけないのだから、敬語を用いるわけにはいかない。ラルフやアルフレッドと話しているような雰囲気で、シェラとの会話を進める。先程とは違い敬語ではない話し方に気分を良くしたのか、シェラの表情が明るくなる。
「お手紙、有難う」
「いや、これくらい……」
「お勉強いいの?」
「予習や復習はやっている」
「でも、メルダースは大丈夫? 遠いって聞いたけど、お兄ちゃん故郷が寂しくなったんでしょう!」
「……かもしれない」
「やっぱり!」
すると突然、シェラがエイルに抱き付いてくる。まさか抱き付かれるとは思わなかったエイルにとって、どうすればいいかわからなくなり身体が硬直する。立場上、シェラを抱き締め返すわけにもいかないので、両腕の行き場に困る。一方、エイルの心情に気付いていないシェラは、腕に力を込める。
「い、痛い」
「ご、御免なさい」
「力、強いね」
「だって、お兄ちゃんに会えたから」
メルダースという遠い場所に行っているはずの兄が、側にいてくれる。この状況で感情が爆発しないわけがなく、シェラは再びエイルを引っ張ると、お気に入りの場所である中庭へ連れて行く。そして咲き乱れる花の前にしゃがみ込むと、その中から一本手折ろうとする。


