ギリギリで教室に戻り席につくと少し暑そうにしている瀬戸くんの姿が視界に入った。




下敷きをパタパタと自分に向けて仰ぎ、汗を拭っている。




なんか可愛いな。






「…~……じゃあここを花崎。」






途端に名前を呼ばれて思わず変な声をだしてしまった。





どうしよう…瀬戸くん見てて全然聞いてなかったよ…!




こんな授業の最初に当てられるなんて思わないし!




席を立ったものの何も言えない私。






「…話聞いてたか?」

 




先生の顔が曇った。
ヤバい……!




焦っていると前からトントンと音がしてその方を見ると瀬戸くんがノートの端っこに小さく答えが書いてあった。






「あっ、ルート3、ですっ」





そう答えると先生は頷いて話を進めた。






「よし、座っていいぞ。
そう、これは公式の……」




よかったぁ…



それより…瀬戸くんは困ってる私に気が付いてわざわざ答えを書いてくれたんだよね。
嬉しいな……



後でお礼言わなきゃ。



少し機嫌がよくなった私はしっかり授業を受けた。







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「起立ー、礼ー。」





ガタガタガタッ





椅子を引く音が鳴り響き教室が賑やかになった。




私は教室を出ようとする瀬戸くんを追いかけた。






「瀬戸くんっ」
 





私が名前を呼ぶと振り向いてくれた。





「えと…たしか花崎さん。
どうかした?」





私の名前覚えててくれたんだ…



それと思ったよりも声は低いんだな。





「さっきはありがとうっ…!
本当助かったよ!
迷惑かけちゃってごめんね。」





「あぁ、いいよ別に。」





少し口角を上げて微笑んだ瀬戸くんに私は見とれてしまった。



そうなんだ…そうやって笑うんだ。





「えと…じゃあ俺行くね。」





「あっうんっバイバイっ」






私がそう言うと軽く右手を上げて行ってしまった。







「やっぱり瀬戸くんはダサくなんかないよ…」








そう呟いた私の一言はみんなの騒ぎ声にかき消されていった。