「お刺身もいいけど・・・シゲさん、アジさばけるの?」
「・・・・・・」


 なぁんでそこで黙るかなぁ・・・。


「マツコ・・・お前、婿とる気あんのか?」
「あるわよ」
「アジもさばけねぇ女ンとこに、誰が婿に来るんだよ」


 さばけないどころか、見分けもつかなかったんですけど・・・。
 その時、入り口の戸が開いた。


「こんちわー!」


 元気に入って来たのは、タカシくんだった。
 あぁ、いつの間にか営業時間過ぎてたんだ?


「こんちわタカシくん、今日もこれからバイト?」
「はい、今日は土曜日だから仕込みが忙しくて・・・少し早めに出勤しようと思って。あ、暖簾、出しておきましたよ。もう営業してるんですよね?」
「あ、ありがと! でも凄いねタカシくん、仕事、一生懸命で」


 そんなことないですよ、と、タカシくんはシゲさんのクーラーボックスをのぞき込んだ。


「うわぁ、美味しそうなアジですねぇ! 刺身にしたら最高ですね!」


 タカシくんの言葉に、あたしとシゲさんは顔を見合わせた。


「タカシくん、これ・・・さばける?」


 おずおずと、聞いてみる。
 タカシくんは即、頷いて。


「はい、アルバイトですけど、僕一応板前の真似事をしてますから」
「うっわ、やったぁ! じゃ、このアジさば・・・むぐうっ!」


 シゲさんがいきなり、あたしの口を塞ぐ。


「おぅタカシ、マツコにアジのさばき方、教えてやってくれねぇか?」
「え? いいですけど」
「いいか、おめぇは絶対に手ぇ出すんじゃねぇぞ。これはな、マツコの婿取り修行なんだよ」


 シゲさん!
 どんだけあたしに修行させたいのよ!


「は・・・はい、分かりました」


 タカシくんは、シゲさんのあまりの迫力に圧倒されて、緊張した顔で頷いた。
 そして、シゲさんは勝手に二階に上がると、まな板と包丁を持って来る。
 新聞紙を敷いて、まな板を置いて。
 あ~・・・。
 アジさん、まな板の上で不安そうにこっち見てる・・・。
 おい、ちゃんとさばけるんだろうなぁ? って。