「章史さんはなぁ、遠い街の神社の宮司だった。どうやって幸子――おまえの母ちゃんと知り合ったかまでは知らねぇが、大恋愛だったんだろうよ。章史さんも長男で、それでも神社の後を継がずにこの町に婿養子にやって来たんだからなぁ」


 シゲさんの話を、あたしは黙って聞いていた。
 幹久も、久遠くんも同じように、真剣に聞いている。
 大恋愛の末に母さんと結婚した父さんは、あたしが生まれたくらいから、色々とこの町の歴史を調べていた。
 父さんは昔から、霊感ではないけれどある種の退魔師のような素質を持っている人だったらしい。
 そして、鬼姫の伝説にたどり着き。


「やっぱり親子だよなぁ。章史さんはあの時、今のマツコと同じ事を言ったんだ。鬼姫を退治して、この町の連中が本当に平和に暮らせる日々を取り戻すんだ、ってな」


 シゲさんがそこまで言った時、幹久が小さく呟いた。


「マツコが生まれたからだ」


 そっか。
 これからパパになる幹久も、その時の父さんと同じ気持ちなのかも知れない。
 あたしが生まれても、あたしはその瞬間から退魔師として生きて行かなきゃならないんだから。


「あの時は・・・俺達も章史さんに賛成したよ。本当に、魔物もいねぇ、退魔師もいらねぇ町になるんなら――それが、俺達が本当に、腹の底から願っている事だからなぁ」
「それで・・・どうなったの?」


 あたしは聞いた。
 シゲさんはさっきよりも、お酒を煽るペースが早くなっている。
 お酒の勢いを借りでもしないと、心の奥に詰まった言葉を吐き出すのが辛い。
 そんなふうに見えて、あたしまで苦しくなる。


「章史さんの知り合いでな、多少なりとも魔物退治をする力を持った人間を全国から集めたんだよ。いるところにはいるんだなぁ・・・総勢42人も、集まった」


 少しでも力のある人間を集めて、父さんはあの空き地で、鬼姫を呼び出した。
 そして――。
 結果は、惨敗だった。
 全国から集めた42人全員が、死んだ。
 母さんも。


「でも・・・ちょっと待って。どうして鬼姫は、この町の人達に手を出さなかったの?」


 鬼姫の目的は、皆殺しの筈なのに。


「それはなぁ」


 答えようとするシゲさんの表情が、苦悶に歪む。


「お前の父ちゃんが、鬼姫を無理矢理あの祠に押し戻したからだよ」


 じいちゃんは――あたしに嘘をついていた。
 今の今まで、父さんは生きていると思ってた。
 だけど――!!