下町退魔師の日常

「俺がこの町に来たのは・・・俺の、俺自身のしがらみを解く為だと思ってた」


 久遠くんは、静かに言った。


「だけど今は違う。こんな俺をちゃんと受け入れてくれるマツコを守りたい。そして、マツコが愛する全てのものを守りたい」
「久遠くん・・・」
「約束する。ちゃんと守るから・・・この町の伝説がどうしたら終わるのか、知っているなら俺たちに教えて下さい」


 そう言って久遠くんは、みんなに深々と頭を下げた。


「あたしの婆さんが言ってたよ」


 重々しく口を開いたのは、駄菓子屋のお婆ちゃんだった。


「鬼になった姫様は、また復活する。たくさんの血を吸って、力を蓄えてから・・・いつか、皆に復讐するためにね」


 あたしは、ごくりと喉を鳴らす。
 確か久遠くんも、病院で言ってたっけ。
 鬼姫は、短刀が血を吸っていくのが目的なんだって。
 やっぱり、その目的は。


「ふ・・・復讐・・・」
「自分を不幸に陥れた人達を皆殺しにするのが、鬼姫の復讐さ」


 当然、時代はガラリと変わってるけど。
 話せば分かって・・・くれないよねぇ、鬼姫さんは。
 じゃあ、ターゲットはやっぱりこの町の人達な訳で。
 しかも、1人食えば満足するんじゃないんだ。
 全員殺すまで、鬼姫は止まらないんだ。
 あんた、どんだけ恨みが深いの。
 しかも、今まで吸いまくった魔物の血を糧にしてるんだから・・・何だか強そうだし。


「それで、鬼姫はいつ、どうやって復活するんですか?」


 久遠くんが、お婆ちゃんに聞いた。


「それは・・・」


 お婆ちゃんは、気まずそうに口をつぐんだ。
 知っているけど、言いたくない。
 ううん、お婆ちゃんは助けを求めるようにシゲさんの方に視線を送ってる。
 言ってもいいのかい?
 そんな風に、迷っているように思えた。
 間違いなく、この町を代表するご老人二人は、鬼姫がどうやってこの町に来るかを知っているみたいだ。
 でも。
 みんなを見渡すと、近所のマダム達も一様に、不安とも、悲しみともとれる表情で俯いていて。
 そんな様子を見て、あたしはふと疑問が浮かんだ。


「もしかして・・・鬼姫って、こっちに出て来たこと・・・あるの?」


 何故、シゲさんやお婆ちゃんがこれ程までに恐れているのか。
 二人は・・・ううん、少なくとも、あたしのじいちゃん世代と母さん世代の町の人達は、知っているんだ。
 鬼姫の事を。