下町退魔師の日常

「ーー・・・子供が出来たんだよ」


 休憩室の床にどかっと座って、幹久は言った。
 え?
 子供?
 誰の子供???


「俺と詩織の子供が出来た」
「うそっ!」


 マジで!?
 やったじゃん、パパじゃん幹久!
 うっわー、保育園の頃いつもズボンからシャツがはみ出てた幹久が。


「おめでとう幹久! 良かった! 良かったねぇ!!」


 あたしは思わず幹久の背中に抱きついた。


「だから、だよ」


 シゲさんの、お酒の入った湯呑み茶碗をかっぱらって、幹久はそれを一気に煽る。


「これから生まれて来る子供に、俺は言うのかよ!? この町は嘘と偽善で成り立っているってな!」


 幹久は、茶碗をテーブルに叩きつけた。


「みんなで仲良く手を取り合って平和に穏便に暮らしてるけど、それは嘘なんだって俺は子供に教えるのかよ!」
「嘘なんかじゃないよ! この町は今でもちゃんと平和だし、みんな本当にいい人達だよ」


 疑う余地もない。
 あたし、知ってるもん。
 みんな、嘘なんかついていない。
 商店街に買い物に行くといつも、一番美味しそうなものを分けてくれる。
 武田先生の病院が、こんな田舎の下町にしては大病院並の設備が整っているのも、もしあたしに何かあった時に最高の治療を施す為だ。
 そして何よりも、皆がこの松の湯を愛してくれている。


「それがどうした? それだってみんな、マツコがいなくなったら自分達の命が危なくなるからだろうが!!」
「違う!!」
「違わねぇだろ!!」
「違うよ! 何で分からないの、このバカミッキー!!」
「・・・もういい、マツコ」


 また怒鳴り合いを始めそうになったあたし達を遮るように、シゲさんが言った。
 一升瓶から、茶碗にお酒を注いで。


「そうだな、幹久の言う通りかも知れねぇな」
「シゲさん・・・」


 やめてよ。
 そんなこと言ったら・・・あたし、何を信じて生きていけばいいの?
 久遠くんが、言っていた事。
 この町の人達はみんな、あたしに嘘をついている。
 魔物退治は、退魔師に任せて。
 自分達の身が危険に晒されないように、退魔師であるあたしに、みんな優しくするんだ。
 そんなの・・・嫌だ!!
 みんながそれを認めたら、あたしは何の為に戦っているのか分からなくなっちゃうじゃん。


「だから俺は・・・魔物がいない、マツコが戦わなくてもいい町になるんなら、今ここで俺も一緒に戦ったっていいって言ってるんだ。お前もそうなんだろ、久遠?」


 幹久は、久遠くんの方を見た。
 今までずっと黙っていた久遠くんは立ち上がると、あたしの右側に移動する。
 そして、あたしの肩にそっと手を回して。