下町退魔師の日常

「もしも・・・もしもね、この町と祠と、鬼姫の伝説のしがらみを解く事が出来たら・・・その時は本当に、みんなが安心して暮らせる。だから」
「ダメだ」


 強い口調であたしの言葉を遮ったのは、意外にもシゲさんだった。
 いつもあたしの一番の味方であるはずのシゲさんが。
 あたしは驚いて、シゲさんを見つめる。


「あの祠に手を出したらいけねぇよ、マツコ。松蔵だってそう言ってただろう」
「言ってたよ。でもそんなの、逃げてるだけじゃないの? ずっとこの先、未来永劫このままでいいの!?」
「いいか、マツコ。ずっと昔からこの町は変わってねぇんだ。変わらなければ、このまま何とか暮らして行ける。そりゃあ、俺達は松の湯と退魔師には頭が上がらねぇよ。だけどな、この生活を変えようとは思わねぇ・・・むしろ、変えて欲しいとも思わねぇんだ」


 どうしてよ。
 この複雑なしがらみを解けば、魔物に怯えずに暮らして行けるのに。
 みんな、賛成してくれると思ってた。
 だけど、一番賛成して欲しいシゲさんがこのままでいいって言ったのが、あたしにはショックだった。


「まっちゃん・・・退魔の仕事が辛いのも分かるけど・・・このままでいさせてくれないかね。あたしらは、それでいいんだよ」


 おばちゃんまで・・・。


「でも・・・!」


 唇を噛み締めて、あたしはまだ食い下がろうとする。
 だけど、言葉が出て来なかった。
 町の人達は、このままでいいと言う。
 だけどあたしは、この町のしがらみ・・・降りかかる呪いを解きたい。
 でもこれって、本当に正しい事なんだろうか。
 退魔師としての仕事・・・祠から出てきた魔物をたった1人で退治する、そんな仕事なんて早く終わらせたいから、あたしはそう言っているだけ?
 いつ命を落とすかも知れない、自分だけがこんなに危険な目にあうなんて、不公平だ。
 あたしは、自分の役割から逃げたいだけ?
 みんなにそう思われても仕方ない。
 もしも、あの祠に手を出したら・・・町の人達にまで、危険が及ぶかも知れない。
 みんなもそれは分かっているんだ。
 だから、退魔師が、この町には必要なんだ。
 あたしがいれば、この町は平和に暮らして行ける。


「・・・ごめん・・・」


 力なく、あたしは言った。
 みんなは黙っている。
 誰も、あたしと視線を絡ませようとはしない。