下町退魔師の日常

 そんなこんなで、この銭湯の名前も【松の湯】。
 どんだけ松が好きなんだ、ってツッコミ、謹んで聞き流しますけど。
 学校が終わると一直線に帰って銭湯の手伝いをしていたあたしは、それほど友達と関わる事もなく、名前の事でからかわれたりイジメられたりはしなかったから、そこは良かったと言うべきなのだろうか。
 それでもじいちゃんは、あたしを育てるのに徹底的にこだわった事があるんだ。
 それは、武道を習わせる事。
 柔道、剣道、合気道、変わった所ではフェンシングやレスリング。
 テコンドーや空手なんかもやらせた。
 とにかく武道と分類される習い事にことごとくあたしを通わせたじいちゃん。
 一応女の子だし、練習も厳しかったから行きたくないといくら泣き叫んでも、じいちゃんは決して休ませてはくれなかった。
 おかげで、そこらの男連中には、ケンカに勝てる自信はたっぷりとある。
 ・・・・・・。
 これも、結婚が遠のく原因なのだろうか。


「まっちゃん、シゲさん酔い潰れちまったから送っていくよ」


 番台に近寄り、首にタオルを掛けたままそう言ってきたのは、商店街にある八百屋の長男、あたしの同級生の春日幹久くんだ。
 ま、コイツが唯一の幼なじみであり、平気で憎まれ口を聞けるような友達ではある。


「毎度悪いね、ミッキー。頼むよ」


 そう答えている間にも、ミッキーこと幹久はまともに歩けなくなってしまっているシゲさんを無理矢理立たせて、その身体を支えている。


「ミッキーっつうなよな」
「まっちゃん、なんて呼ぶからよ」


 あたしを知っている大抵の人は、あたしのことを“まっちゃん”か“マツコ”と呼んでいる。
 このまっちゃんを広めたのは、当然シゲさんを肩に抱えたこの男だ。
 だからあたしも、ミッキーをできる限り下町中に広めてやった。